怪談乳房榎
みなさん、こんにちは。
ブロガーのすい喬です。
夏がやってきますと、やはり怪談話ということになります。
昨今はあまりにシステム全盛なので、かえって怖い話が好まれるようです。
といってもそこいらにある怖い話なぞというのは、あまり底が深くないのです。
よく聞いているとつまらないのが多いものです。
そこへいくと三遊亭圓朝という人は、話をこしらえる名人ですね。
とにかくたくさんの作品があります。
その中でも『鰍沢』などというのは三題噺の名作です。
さらに怖い話ということになりますと、『牡丹灯籠』や『怪談乳房榎』、さらには『真景累ヶ淵』ということになります。
今日はなんとなく気分がのったので、自分のライブラリーから三遊亭圓生師匠の『怪談乳房榎』を聞きました。
実に2時間10分という長さの話です。
それでも本当の話の後半はしていませんので、実際に全部やると3時間を軽く超えるということになります。
ストーリーは本などで読んでいただくことにしたいものです。
しかし、あらすじだけはご紹介しましょう。
主人公は江戸の絵師、菱川重信です。
元は武士でした。
妻おきせと真与太郎という赤ん坊と暮らしておりました。
そこに弟子入りしたのが悪漢、磯貝浪江。
一見、良く気がつき手先も器用で評判は良いのですが、実はしたたかな男です。
ある時、重信は寺の天井画を依頼され、じいやの正介を伴い泊り込みで描くことになります。
その留守中、浪江は以前から好きだった菱川重信の妻、おきせにせまり、息子を殺すと脅して想いを遂げます。
ここの描写は実に迫真のものです。
事件の発端と経過
圓生の話は真に迫っていて実に怖いです。
だからこそ、いつまでも聞き続けられるのでしょう。
浪江はわざと胃けいれんを装って女二人が暮らす家に一泊させてもらい、その夜に事件が起きるのです。
しかしそこが男と女の不思議さです。
二人の関係が深くなっていくうち、おきせは浪江に好意をいだくようになります。
ここいらあたりの心理の襞は、なにがなんでも学ばなければなりません。
学校では絶対に教えてくれませんポイントです。
しかし、重信が戻ってくれば、二人の仲は当然のように終わらざるを得ないのです。
そこで浪江は重信が「戻ってこない」ための算段を考えます。
それは何か。
つまり夫である師匠、菱川重信を殺してしまうということです。
浪江は暑いさなか、重信のいる寺へ陣中見舞いと称して訪ねて行きます。
天井画の雌龍、雄龍はあとは雌龍の片腕を描き上げれば完成というところでした。
浪江はじいやの正介を連れだして酒を飲ませ、金を与えて篭絡し、重信殺しを手伝えと脅迫するのです。
寺に戻った正介は有名な落合の蛍見物に重信を誘いだし、大きな蛍が飛び交う中、飲めない重信に酒を飲ませ、上機嫌での帰り路、浪江は重信を襲い、その命を奪います。
このあたりの描写はその場に自分がいるような気にさせるものです。
名人は誠に怖ろしいですね。
じいやの正介があわてて、大変だと寺へ駆け込むと、殺したはずの重信が最後の雌龍を書き終え、落款を押しているところです。
ところがそこで急に部屋の灯りが消え、その落款には血の痕がべったりとはりついていたのでした。
この後、残されたおきせは磯貝浪江と再婚をしますが、因果はめぐりにめぐるのです。
やがて、おきせは浪江の子を産んだものの、乳が出ず、死なせてしまうことになります。
その頃からおきせは、重信の亡霊のたたりで乳房にはれ物が出来て苦しむようになり、ついには狂い死をするのです。
浪江は、正介と殺したはずの子供、真与太郎が生きていることを知り、亡き者にしようと松月院に現れますが。
さてその後は。
ちなみにこの乳房榎というのは板橋区赤塚にある古刹松月院に古くから伝わる樹だとか。
そこからヒントを得て、名人圓朝がつくった話なのです。
あんまり最後まで聴くと、夜中に思い出して眠れなくなります。
怪談噺を聞く時は、くれぐれもご用心を。
今日はここまで、じゃあね。ばいばい。