すぐに読め
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今日は1年ほど前に読んだ本の話をします。
昨日、生徒と話をしている最中、突然思い出したのです。
途中でとまりませんでした。
本というのはそういうものなのかもしれませんね。
しばらくの間は忘れていても、何かのきっかけで、突然蘇ってくることがあるのです。
たまたま、読書とは何かというタイトルの小論文を添削していた時のことです。
生徒にこの本の話をしたら、どう感じるだろうかと思いました。
近頃の生徒はあまり本を読みません。
身を震わせて読むなどという経験も、あまりないのでしょう。
最後のページまで読み切ってしまうと、当然のことながら、そこから本に先はありません。
それが残念で悔しいなどという感傷を持つこともないのです。
そんな話をしているとき、一冊の本を読んだあとで、大げさにいえば世の中が変わったように見える本はないのかという話題になりました。
その時です。
1年前に読んだこの本が、ふと頭をよぎりました。
そこから著者の森岡さんの話を生徒にしたのです。
当然のことながら彼女は知りませんでした。
どういう人なのかを説明しながら、USJをたてなおした話をしました。
著者の森岡さんは統計学が専門です。
彼は集客力の落ちたテーマパークについて、考え続けました。
東京の人間を、なんとかして大阪のUSJにつれていくにはどうしたらいいのか。
新幹線代を出しても、ディズニーランドへ行かずに引っ張り込むだけの魅力がなければ、絶対に成功しない。
関西圏からの誘致だけでは、赤字が続くだけになる計算でした。
そのために必要なコンテンツは何か。
シビアな計算のもと、ハリーポッターに着目したのです。
年間700万人から1500万人へ
集客というのは最終的に数字そのものです。
まっすぐ、売り上げに響きます。
厳しい現実ですね。
年間集客が約700万人までに落ち込んだUSJを、V字型に回復するには何が必要なのか。
その冷静な計算をしてみせるところが、彼の強みです。
他のマーケターが持っていない統計学の知識です。
どうやってそれを身につけたのか。
もちろん、大学での勉強もあったでしょう。
しかし現実は机上の計算だけで進むものではありません。
彼が自分の実践に自信をもつためには何が必要だったのか。
それを記したのがこの本です。
前半は大学生になった娘のために、やさしく言葉を紡いでいます。
誰だって最初から自信満々の人はいません。
それをどうやって身につけてきたのか。
その長い道のりを、子供に諭すように書いたのがこの本なのです。
前半はそうした意味で、やさしい気持ちで読んでいけます。
普通に暮らしていれば、自分に何が向いているのかなどということは、なかなかわかりません。
自分の好きなことは何か。
それを考え続けることが、就活への道です。
自分に最も可能性のある資質は何か。
それを見極めるために、彼は次々とヒントを書いていきました。
動詞で探す
自分の強みをどうやって探し出すのか。
それを森岡さんはT.C.L能力(思考、コミュニケーション、リーディング)の3文字から探りだせというのです。
ヒントは好きな動詞です。
自分がどういう特性を持っているのか。
その強みを活かせる仕事に就くのが、1番幸せな人生を送る方法だというのが信念なのでしょう。
自分が最もハッピーな理想の状態を実現するために必要なこと。
それを頭の中で思い描けというのです。
自分を1つのブランドだとしたら、何が提供できるのか。
雇ってくれる会社に対して、何が可能なのか。
これだけのことができると、自信を持って言えることがあれば、その方向で進むために自分をつくりあげ、落とし込んでいけというのです。
口にするのは簡単ですが、それほど簡単なことではありません。
いつも自分にできることを中心に考え、会社に依存しないというのが彼の原点なのです。
それがうまくいけば、会社をかわることもそれほど難しくはありません。
新しいことに挑戦していないと、同じ職場で成長不能な仕事を続ける結果になります。
変わる努力を継続することこそが、成長の証だというのです。
結論は「狭き門より入れ」です。
迷ったら厳しい方へ。
本当に力を持てば優位な人材となり、強くなれるのです。
しかしこれはそんなに簡単な話ではありません。
娘に捧げたこの本は最後まで、優しさに満ちています。
厳しさも当然あります。
だから安心して読んでいられるのです。
ところが最終章は一転して、彼の苦しかったときの話だけになります。
P&Gでのこと
この会社のことは自分で調べてください。
世界に軸足を置いた巨大企業です。
マーケティング本部にいたころは、働きすぎてノイローゼ状態になりました。
ついにダウン。
その後は定時で帰ることを目標にしたそうです。
27歳のとき、最速でブランドマネージャーに昇進しました。
その時担当したのが1980円のヘアケア商品でした。
高すぎて売れるとは誰も思っていなかったのです。
理不尽な戦いを続け、さんざん馬鹿にされ、それでも結果を出したのです。
その結果、2004年にP&Gの本拠地アメリカへの転勤が決まります。
ここからの話は壮絶です。
北米でのパンテーンのブランドマネージャーに就任したのです。
この商品はP&Gの売れ筋商品の代表です。
いじめが続きました。
議事録さえまわってこないこともありました。
会議で発言すると、次回から顧客のいる会議には出るなと釘をさされる始末です。
何度辞めよう思ったかわからないと、彼は書いています。
それでも呪文のように「必ず結果を出す」と自分に暗示をかけ続けました。
渡米して2年後、ついに昇進を果たします。
14年間の在籍中に、鉄の心を自分のものにしていったのです。
それが今につながっているのでしょう。
絶対に自分は負けない。
狭き門より入れ。
ここから日本に戻り、USJを再建した話は、ご自身で読んでみてください。
不屈といえば、それまでのことです。
読み終わったとき、とてもこの人のまねはできないと思いました。
しかし彼は現実に目標を達成しているのです。
これから就活をする人にとっては、信じられない話かもしれません。
これがリアリティです。
這い上がっていくものは、必ず「差」を意識します。
そこに商気があるからです。
ぜひ、ご一読ください。
第6章を読んでいると、自分の生活の生ぬるさだけを実感します。
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元気をもらえる本です。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。