【褒めるということ】カウンセリングの手法「コンプリメント」の難しさ

コンプリメント

みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回はカウンセリングの基本的な手法、コンプリメントについて考えてみましょう。
人の心はアジサイの花と同じだと、かつて詩人の萩原朔太郎は言いました。
瞬間、瞬間で人間のこころは次々と変化していくのです。

複雑な現代の中で、人と向き合うことを職業にしているカウンセラーは、まさに心のプロともいえる存在ですね
彼らはどのようにして、他者の心と向き合っているのでしょうか。
仕事柄、ぼく自身、不登校の生徒に対応することが増えてきました。
以前なら全校の4%程度の生徒が、不登校だと言われていたのです。
それが現在では小中学校では、約10%に近い数字にまで急上昇しているとか。

コロナで学校がしばらく休校していたことも、原因の1つにあげられるかもしれません。
しかしそれだけではないというのが、現場にいる人間の感覚です。
実際、人間関係をうまくつくりあげられない生徒が多いと感じます。
集団が怖いというだけではなく、個人同士の関係も、容易に組み立てられないというのが実感です。
生徒本人に不登校の原因は何かと訊ねると、よくわからないと答えます。

いじめが原因だというような、1つの理由だけではありません。
誰でもが、ちょっとしたことでつまづき、そのまま家に引きこもってしまう傾向が強いのです。
特に夏休みや冬休みなどの休み明けは、学校に行きたくなくなるという傾向が強いようです。
親も、突然登校を嫌がる子供の姿をみると、ショックを受けます。
生徒はやがてSNSなどに重心を移していき、ことばの数も少なくなっていきます。

語彙も減り、勉強にもついていけなくなると、あとは急坂を転がっていくだけです。
なんとか自信をもってもらいたい。
自己肯定力をつけてほしいと思えば、思うほど、空回りしていくのです。

カウンセラーの役割

現在、多くの学校にカウンセラーが配置されています。
しかし常駐のところはわずかしかありません。
予算が潤沢ではないからです。
週に1度か2度というところが大半ではないでしょうか。
次々と担任の先生から相談をもちかけられ、疲れ果ててしまうのが実情です。

生徒はそれぞれに複雑な背景を持っているため、一筋縄ではいかないのです。
面談をし、問題の根を探していかなければなりません。
その1つ1つに長い時間がかかります。
根気のいる作業なのです。
以前より、不登校の生徒が増え、ますます人材が必要になっているのは明らかです。

結局、人手の足りないところは担任が面倒をみるということになります。
しかし全ての先生が必ずしも、心理学を学んできたというワケではありません。
感情の行き違いなどがあり、かえって話がこじれてしまうケースも見受けられます。
専門のカウンセラーたちはどのようにして、生徒のこころを開かせていくのでしょうか。そのプロセスを知りたくなりました。

生徒はけっして自分から多くを語りません。
とにかく傾聴するというのが、基本なのです。
相談相手が、自分で何かに気づくまで、黙っています。
あれやこれやというと、かえって複雑になるばかりですからね。
その時に使う手法が「コンプリメント」と呼ばれるものなのです。
簡単にいえば、「褒める」という作業です。

しかしこれが想像以上に難しいのです。
失敗すれば、馬鹿にされたような気になる人もいます。
阿吽の呼吸が必要な所以なのです。

上手に褒める方法

とにかく上手に褒めなくてはいけません。
コンプリメントをうまく利用すると、不登校が治るという人もいます。
親にしても、子育ての悩みは複雑で深刻なものです。
それを単純に褒めなさいと言われて、簡単にできるものではありません。
それでも子どもの心に自信が湧いてくれば、解決への道筋はできていくものです。

「論理国語」の教科書にこの論点に対する対談が所収されていました。
森俊夫氏と黒沢幸子氏のものです。
両人とも臨床心理学者で、多くの不安神経症の患者のカウンセリングにあたってきた、豊かな経験を持っています。
その部分の文章を読んでみましょう。

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コンプリメントは「ワーッ、すごいですね」とか言って明るく元気にしなければいけないと思われた方がいるかもしれません。
確かに、そうやって派手に言わないと褒められたと感じられない人もいます。
それとは逆に、「ワーッ、すごいですね」と言われると「ばかにしとるんか」とムッとする人もいるでしょう。(中略)

トレーニング期間中には、相手の特質と自分の特質を考えてコンプリメントするということを意識してください。
「この人の場合だったら、こういうふうにコンプリメントを入れるのがいいけど、自分の得意なやり方を考えると、こういうやり方の方がはいるな」と考えながらトレーニングするのです。(中略)

私の知っている大阪のあるセラピストは3つしか言葉を使いません。
「へえー」「わあ、すごい」「どうしはったん」の3つだけです。
親は叱ってしまう
実際にやってみると、子供を褒めるのはなかなか難しいものです。
つい叱ってしまうことの方が多いのかもしれません。

どちらがいいのかは単純には決められませんね。
相互の信頼関係がなければ、なんの意味も持たないのです。
しかし教育の基本はやはり、褒めることにあるのではないでしょうか。
どの段階までできたのかというのを、順番にみつけ、一緒に喜ぶということです。
親や教師のわずかなことばに反応して、それ以後の人生がかわったという発言をよく聞きます。

愛情のこもった承認

教育者の責任の重さを感じる時ですね。
コンプリメントとは、子どもの「良さ」をみつけることから始まるのです。
「~の力があるね」とか「~ができてすごい」とか「先生もうれしい」という愛情のこもった承認を与え続けることが最も大切なのです。
無理にその台詞を言ったことで、お互いが疑心暗鬼になるようなら、やめておいた方がいいでしょう。

その表現が、ごく自然に出てくるようなら、なんのためらいもいりません。
それが全てなのではないでしょうか。
これが「最善の子育て法」だなどというものはないのです。
それぞれの人格と人格がこすれあう瞬間のことばが、ポイントなのです。
真剣に自分のことを考えて叱ってくれていると子供が判断すれば、それこそが最上のコンプリメントなのかもしれません。

正解はないのです。
ここがこの問題の1番厄介なところです。
ここでは学校の場での使い方を考えましたが、これは人間のいるどの場所でも、同じように通用する考え方です。
職場でも、家でも、子どもと先生や親の関係だけとは限りません。
特に自信をなくしている人や子どもにとってコンプリメントは、非常に大切な関わりとなります。

コミュニケーションをより円滑にするための大切なアイテムであることを覚えておいてください。
いつでも自然に使いこなすためのトレーニングが必要でしょう。
さっそく意識して始めてみることを勧めます。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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