角田光代『紙の月』が心の隙間に入り込んでくる

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まさか彼女の本を続けて読むとは思わなかったです。
たまたま家にあったからだけどね。
最初は銀行からお金をくすねる話だとたかをくくっていたのだ。
実際の事件から思いついた小説らしい。

しかし途中から、これが人間だと思えるようになっていった。
夫婦生活の隙間に忍び込む寂しさというか、物足りなさの描写がうまい。
もっと本当はこうじゃなかったはずなのに。
思ったように展開していかない実人生。

自分が親にしてもらったように、子供がいたらしてやりたかった。
ところが子はさずからない。
もう諦めた。
たくさんお金があれば。

新しい家を買う。
夫は仕事を頑張っている。
上海への転勤話。
単身赴任。

会話という会話もなく、それでいて特に仲が悪いというのでもない。
少しだけ自由に使えるお金を手に入れようとして銀行へ勤める。
非正規の営業職。
評判がいい。

得意先が増える。
そのうち、いろいろな家の内情もわかり、お金を預かることも増えていく。
ふと出会った若い大学生のピュアな反応に心がざわめいた。
なんとかして手助けしてあげたいと思う。
映画を撮りたいのだとか。
お金の工面もはじめはおずおずと。

そのうち、お客から預かった預金を平気で使う自分がいる。
自分のお金から返せばいいと思いながらも、若い学生とホテルのスイートルームへ。
ストーリーだけを書いていると、不思議な感覚になるね。
心の隙間にひたひたと押し寄せてくる、こんなはずじゃなかったという人生への悔恨。

真面目だった自分がどこまでも懐かしい。
お嬢さん学校での様子がまぶしい。
最後はいくら使ったのかもわからず、アジアへ逃げる。
早く捕まえてほしい。

ラオスの国境を越えれば、そのままこの世から消えてしまえるかもしれない。
息苦しい主人公の心の中が透けて見える。
なぜここまでしなくてはならないのかと思いながら、それでも生きていることの証しを探す。
久しぶりに胸に響く小説を読んだ。
お金で買えないなにかとはなんだろう。

テレビドラマにも、映画にもなりました。
見た人がいるかもしれない。
文字を追いかけていると、ヒリヒリしてくる。

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