思考の本質
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は論理力とはなにかという、根本的な命題にせまってみます。
今年度から高校では新しいカリキュラム、「文学国語」と「論理国語」という授業が始まりました。
それぞれが選択科目なので、学校によって配置の仕方はさまざまです。
大学受験を希望する生徒の多い高校では「論理国語」をメインにして、残りの時間を「文学国語」にあてるという形式が一般的です。
文系、理系に分けているところでは、文系には「文学国語」があるものの、理系ではカットするという方法をとっているところもあります。
今日の世界は「論理」が優先していますね。
グローバル社会の中を流れていく原理原則は、政治、経済を中心とした社会科学の論理だといってもいいでしょう。
数年前から始まった「大学入学共通テスト」においても、論理的に考える問題や書かせる設問などが、積極的に取り入れられています。
そうした傾向を受け、高校の授業も論理性重視の方向へ舵を切ったといっていいのではないでしょうか。
「論理国語」の授業の冒頭で習うのは、どのような文章なのでしょうか。
少し検討してみる必要があると思いました。
三省堂版ではズバリ『論理力と思考力』という哲学者、野矢茂樹氏の文章です。
論点はそれほど難しくはありません。
具体例なども示されていますが、基本は論理力と思考力は同じではないという主張につきます。
普通はどちらも似たようなものだと考えがちです。
しかしその違いを彼は厳然と説明しているのです。
何がどう違うというのでしょうか。
本文を読みながら、少し考えてみます。
この文章から、小論文の問題をつくるとしたらどうなるかも探ってみたいです。
本文
ひと言で言えば、「論理」とは言葉が相互に持っている関連性にほかならない。
しかし、そのことの説明を続ける前に、まずは論理に対する一つの一般的な誤解を解いておこう。
一般に、論理力というのはすなわち思考力だと思われているのではないだろうか。
「論理的思考力」とか 「ロジカル・シンキング」といった言葉がよく聞かれるように、 論理とは思考に関わる力だと思われがちである。
だが、そこには誤解がある。
論理的な作業が思考をうまく進めるに役立つというのは確かだが、論理力は思考力そのものではない。
思考は、結局のところ最後は「閃き」(飛躍)に行き着く。
そのために、グループで自由にアイデアを出し合う、いわゆるブレーン・ストーミングなどを行ったりもする。
そしてブレーン・ストーミングなどでは、論理的に一貫した発言をすることよりも、可能な限り自由に発想していくことの方が有効なものとなる。
思考の本質はむしろ飛躍と自由にあり、そしてそれは論理の役目ではない。
論理は、むしろ閃きを得た後に必要となる。
閃きによって得た結論を、誰にでも納得できるように、そしてもはや閃きを必要としないような、できる限り飛躍のない形で、再構成しなければならない。
なぜそのような結論に到達したのか。
それをまだその結論に到達していない人に向かって説明しなければならないのである。
ここで重要なのはあなたがその結論に到達した実際の筋道ではない。
実際の思考の筋道は、すでに述べたように、最終的な閃きに至った紆余曲折のある道だろう。
苦労話をするというのでもない限り、それをそのままアピールしても意味がない。
どういう前提から、どういう理由で、どのような結論が導けるのか。
そしてそれ以外の結論はどうして導けそうにないのか。
そうしたことを論理的に再構成して説明するのである。(中略)
より詳しくいえば、論理力とは、さまざまな言語的能力の中でも、とりわけ言葉と言葉の関係、ある言葉と他の言葉がどういう仕方でつながりあっているのかを、捉える力である。
典型的には、根拠と結論をつないでいく力、すなわち論証を読み解き、自ら組み立てる力であるが、それだけではない。
人の話を聞いて、さっきの話と今の話はどう関係するのか、それを把握する力も論理力である。
そしてまた、論文や報告書、あるいは一冊の本全体の中で、その部分はどういう位置付づを与えられているのか、そうした全体と部分の関係を捉えるのも、論理の力にほかならない。
思考はひらめき
ここで小論文の設問を具体的に考えてみましょう。
最初に思いつくのが、筆者の主張です。
ポイントはただ1つ。
論理力と思考力は違うという事実です。
そこで最初の設問が作れそうですね。
論理力と思考力の大きな違いは何か、というのがそれです。
ここがきちんとおさえられるかどうかで、次の設問に移れます。
その上にたって、両者の特性をみていけばいいのです。
正解はわかりましたか。
思考力とは新しいものを生み出す力だと筆者は論じています。
彼はそれを「ひらめき」とか「飛躍」と呼んでいます。
では論理力とは何でしょうか。
それは考えをきちんと伝える力であり、伝えられたものを正確に受け取る能力のことだというのです。
論理力とは、言葉と言葉の関係、ある言葉と他の言葉がどういう仕方でつながりあっているのかを、捉える力なのだと説いています。
この両者が全く別物だということさえ理解できれば、その次の設問にも答えられるはずです。
論理的な能力
第2問は論理的な能力をつけるにはどうしたらいいのか、ということをメインにしてみましょう。
当然、あなたの体験を踏まえてというキーワードを入れるべきです。
この表現があることで、解答のバリエーションが広がります。
同時に難易度も上がるのです。
誰でもが様々な体験をしています。
しかしそれを設問とうまく繋げ、より他者にアピールする文章を書くとなると話は全く別です。
600~800字程度の字数の中に、個人的な体験をうまく織り込むのは大変に難しい作業です。
個人的なエピソードは通常、制限字数の4分の1を超えてはいけません。
文全体のバランスが崩れてしまうからです。
文章の処理能力を高めるには、練習以外にいい方法がないのです。
ここで必要になるスキルは、次のようなものです。
うまく文中に書き入れてください。
① 自分の考えや意見を整理し、根拠や理由を明確にする。
② 相手の話を正確に受けとめ、その内容を踏まえて自分の考えを整理する。
③ 自分の考えや意見を適切に発表する機会を、積極的につくる。
論理力、思考力が身につけば、相手の考えをしっかりと把握できます。
さらにその理解の上に立って発言ができるため、コミュニケーション能力も飛躍的に伸びるのです。
思考力と論理力にはそれぞれの特性があります。
ひらめきが得意な人もいれば、論理的な分析や説明に長けた人もいます。
その両者をうまく個人の中で繋げていければ、最高の力を発揮することはまちがいありません。
ポイントは「根拠」と「結論」を一直線にまとめ上げる練習です。
そこに論点をもっていけば、第2の設問にも十分耐えられる答案になるはずです。
全力で頑張ってください。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。