具体と抽象
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は「具体」と「抽象」という2つの考え方を説明します。
小論文はつねに論理を優先します。
このことは何度も記事にしてきました。
しかし論理が大切だというと、抽象的で難解な用語を使った文章を書けばいいのだと勘違いしている人も多いのです。
それはあまりにも浅薄な考え方です。
確かに最終的にテーマを煮詰めていく段階で、内容が抽象的なものになることはあります。
ところがそれは本来の目的ではありません。
あくまでも自然な流れにのって書いているうちに、そういう事態になったということです。
それよりも内容が読み手にきちんと理解されるかが、ポイントなのです。
そのためには何が必要なのか。
どうしたら相手に把握されやすい文章になるのかを、考えなくてはいけません。
一般的に難解な内容の文を読む時、どういう方法で内容を捕まえるのでしょうか。
そのための大切なキーワードがあります。
「具体」と「抽象」がそれです。
難しいテーマの文章は誰が読んでも厄介なものです。
論理の筋道を必死で追いかけて、何が結論にあたるのかをそれぞれ推測します。
しかしそれができない時はどうするのか。
ポイントは「具体」です。
つまりわかりやすい例があれば、内容がわかりやすいのです。
読者は自分が知っている事実から、推測できる話の筋を追いかけます。
その時、最も大切な要素は何か。
「数字」「歴史的事実」「体験と見聞」「固有名詞」なのです。
数字
数字は最強です。
具体的な数字がどれほど人の目をひきつけるか。
1つだけ、例を出してみましょう。
あなたは中国で何人の人が、今年の共通テスト(高考)を受けたと思いますか。
高考とはガオカオと呼ばれる、年に一度だけの全国大学共通入学試験のことです。
なんと受験者の数が、1300万人に達したのです。
中国の話はスケールが違いますね。
去年より100万人増えました。
この数字は東京都の全人口を越えています。
現在、中国の全大学の数は3000校です。
大学卒業者の失業率は20%以上といわれています。
これがまさに現在の中国の横顔なのです。
それでは日本の場合はどうなのでしょうか。
数字をあげれば、より具体的に現実がみえます。
来年の受験者総数は65万人と予想されています。
大学の数は793校。
定員の総数は約62万人です。
全入時代を迎えていることがこれでよくわかります。
中国の受験戦争の現実がどれほど重いのかと論じるよりも、数字を示せすだけで、その事実がきちんと伝わるのです。
数字はシビアで重い意味を持っています。
歴史的事実
大切な要素のもう1つは歴史的な事実です。
現実にあった歴史的なことがらを説明することで、多くの人がより理解しやすくなります。
誰もが知っている歴史を示すことで、文章の説得力が一気に増すのです。
なぜ、中国ではこれほどの人が大学に押し寄せるのか。
その歴史的な背景を探らなければ、いくら論理で説明しようとしても無理です。
ここでは「科挙」を1つの例としてあげてみます。
科挙は、中国における官僚登用のための試験制度のことです。
6世紀の隋の時代に初めて導入され、清朝末期に廃止されるまで1300年以上続きました。
優秀な官僚を選抜するための、唯一の全国的な試験だったのです。
ホワイトカラーになって出世するためには、この試験を突破しなければなりません。
中国人の心から、この試験の存在が消えることはありません。
それがまさに現在おこなわれている「高考」なのです。
彼らがなぜ自然に共通テストを受け入れるのかという背景に、科挙があることは間違いありません。
この歴史的な事実を説明することで、1300万人の受験生という巨大な数字が意味を持ちます。
単に学歴社会の弊害を論じても意味がありません。
これが歴史の真実なのです。
善悪という範疇を超えて、血の中に流れている伝統的な考えを否定することはできないからです。
そこを指摘すれば、読者はに納得するでしょう。
体験と見聞
小論文の文章は、どうしても話が茫漠としたものになりがちです。
大学教育の在り方などという漠然としたテーマにどこまで色をつけ、実感のある文章にするかが大切なのです。
抽象的な文章には、説得力がありません。
説得力がない小論文は、間違いなく大幅に減点されてしまいます。
そういう状況の時、大切なのは「具体」です。
ここで力を発揮するのが「体験」と「見聞」なのです。
自分が実際に体験したこと、見聞きしたことには力があります。
それを元にして、文章をまとめることが大切です。
ただし字数制限があります。
きちんと意識してください。
個人の体験はその人にだけ有効であるという事例も多々見られます。
それだけに扱いには十分注意することが肝要です。
いい気になって書きなぐると、とんでもない失敗をします。
つねに字数と内容を冷静に計算する態度が必要なのです。
固有名詞
「具体」を裏付ける最大のアイテムは「固有名詞」の存在です。
最もわかりやすいのは人の名前でしょう。
特定の有名な人が、このような文章を書いているという例は大変効果があります。
新しい組織を作りあげた個人が、以下のような成功例を持っているという話もわかりやすいです。
固有名詞は名前だけに限りません。
特定の場所でも、会社名でも、なんでもいいのです。
それに関係した内容に紐づく有益な情報であれば、内容は問いません。
抽象的な内容をより明確に説明するだけのアイテムであれば、どのようなものでも有効です。
こうしてみてくると、それぞれの内容に応じた、数字や、歴史的事実、体験と見聞、固有名詞などをつねに自分のものにしておかなくてはならないということが、わかるでしょう。
言うのは簡単ですが、実行するのは大変です。
つねに多くの情報に接していなければならないからです。
勉強を続けるしかありません。
自分のネタを持っていることも大切です。
数字もあらかじめ記憶しておくことです。
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うまく使うと、非常に効果があります。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。