人新世の環境危機
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は「人新世」という言葉の内容をさらに深堀りしていきます。
近年、この表現をよく聞くようになりました。
「じんしんせい」または「ひとしんせい」と読みます。
斎藤幸平氏の著書『人新世の資本論』がベストセラーになったのは、記憶に新しいところです。
2021年、新書大賞を受賞しました。
このサイトにも関係の記事がありますので、最後にリンクを貼っておきます。
最初にこの表現がいつ頃、なぜ登場したのかという背景を簡単に説明します。
地層のできた順序を研究する学問は「層序学」と呼ばれています。
地質学の一部門なのです。
もっとも大きな地質年代区分は「代」でそれが「紀」に分かれ、さらに「世」に分かれます。
これだけでもかなり複雑ですね。
古生代とか白亜紀などという言葉は、聞いたことがあると思います。
現在は11700年前に始まった「新生代第4紀完新世」の時代だ、というのがこれまでの定説でした。
それが現在、すでに「完新世」は終わっており、新たな地質年代に突入しているとする学説が検討されつつあるのです。
新たな地質年代の名前はアントロポセン(Anthropocene)、人類の時代という意味です。
日本語では「人新世」と読みます。
現在のところ、人新世は1950年前後に始まったという説が有力です。
第2次世界大戦後に急速に進んだ人口の増加、大量生産、都市の巨大化、海洋の酸性化などがその背景にあります。
地球温暖化と経済
人類は地球環境に甚大な影響を及ぼしてきました。
想像してみてください。
膨大なエネルギーを、わずか100年にも満たない間に消費し続けているのです。
その間に使用した化石燃料は地球が、長い時間をかけて蓄えてきたものばかりです。
それをあっという間に次々と燃やし、二酸化炭素を空中に排出し続けています。
かつて起こった小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような地質学的な変化が、地球に刻み込まれつつあるのです。
想像するだけで、怖ろしい話です。
ここへきて、国連が主導してSDGsを唱え始めたことは、誰もが知っています。
このまま、地球の環境が悪化し、温暖化が進めばどうなるのか。
考えただけで怖ろしい話です。
環境危機と言葉にすることはできますが、その影響の大きさは計り知れません。
大学入試においても、小論文のテーマとして、出題されない年はないです。
それほどに喫緊の課題なのです。
ここで斎藤幸平氏の文章を少し読んでみましょう。
なぜ地球が新たな時代に突入したと言えるのか。
コロナウィルスの蔓延も、考え方の根本を大きくかえました。
感染症の怖ろしさが、人々に実感として受け止められました。
特に経済が大打撃を受け、多くの非正規労働者が真っ先に仕事を失いました。
格差が広がったのです。
過剰な生産と消費に基づいて回転していた、資本主義の在り方そのものにも疑問が向けられたのです。
環境問題と資本の論理との関係は、複雑に絡み合っているのです。
背景をさらに探ってみましょう。
本文
人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的にみて、地球は新たな年代に突入したといい、それを「人新世」と名付けた。
人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味である。
実際、ビル、工場、道路、農地、ダムなどが地表を埋めつくし、海洋にはマイクロプラスチックが大量に浮遊している。
人工物が地球を大きく変えているのだ。
とりわけその中でも、人類の活動によって飛躍的に増大しているのが、大気中の二酸化炭素である。
ご存知のとおり、二酸化炭素は温室効果ガスの一つだ。
温室効果ガスが地表から放射された熱を吸収し、大気は暖まっていく。
その温室効果のおかげで、地球は、人間が暮らしていける気温に保たれてきた。
ところが、産業革命以降、人間は石炭や石油などの化石燃料を大量に使用し、膨大な二酸化炭素を排出するようになった。
産業革命以前には280ppmであった大気中の二酸化炭素濃度が、ついに2016年には南極でも400 ppmを超えてしまった。
これは400万年ぶりのことだという。
そして、その値は、今この瞬間も増え続けている。
400万年前の「鮮新世」の平均気温は現在よりも2~3度高く、南極やグリーンランドの氷床は融解しており、海面は最低でも6m高かったという。
なかには10~20mほど高かったとする研究もある。
「人新世」の気候変動も、当時と同じような状況に地球環境を近づけていくのだろうか。
人類が築いてきた文明が、存続の危機に直面しているのは間違いない。
近代化による経済成長は、豊かな生活を約束していたはずだった。
ところが、「人新世」の環境危機によって明らかになりつつあるのは、皮肉なことに、まさに経済成長が、人類の繁栄の基礎を切り崩しつつあるという事実である。
気候変動が急激に進んでも、一部の人々は、これまでどおりの放埓な生活を続けることができるかもしれない。
しかし、私たち庶民のほとんどは、これまでの暮らしを失い、どう生き延びるのかを必死で探ることになる。
そのような事態を避け、よりよい未来を選択するためには、市民の一人一人が当事者として立ち上がり、声を上げ、 行動しなければならないのだ。(中略)
その原因の鍵を握るのが、資本主義にほかならない。
なぜなら二酸化炭素の排出量が大きく増え始めたのは、産業革命以降、つまり資本主義が本格的に始動して以来のことだからだ。
資本主義の限界
たしかに資本主義は行き詰まりをみせているのかもしれません。
莫大な富を持つ人間と、そうでない人間との間には、想像もできない溝があります。
働くこと知らない人々が最も多くの財産を持っているという矛盾も、まさに資本主義の問題そのものです。
一方で、共産主義を採用している国々は、本来の役割が機能しているとはいえません。
中央集権国家体制はより強固なものになり、独裁的指導者を生み出しています。
ソ連崩壊から30年たち、社会は良くなったといえるのでしょうか。
コンビニや携帯電話があれば幸せだ、と主張する若者たちもいます。
しかしその一方で雇用や過剰な競争、低賃金の長時間労働が蔓延しています。
将来の展望を見いだせと言われても、今以上の図式がみえてこないというのが、本当のところではないでしょうか。
資本主義はどこまで進むのでしょうか。
今回のコロナ禍でも、民主主義の国ほど、コロナを防御できなかったという総括も出始めています。
民主的な資本主義の行き着く先が、環境破壊による地球温暖化という結論では、あまりにも未来が暗すぎると思いませんか。
ロシアによるウクライナ侵攻によって、地球の環境は明らかに悪化しました。
そこで使われている砲弾や、火災により、大気中の二酸化炭素の量は増大しています。
それでは脱成長を願わなければならないのでしょうか。
どうやって化石燃料を使わずに、エネルギーを確保すればいいのか。
問題は山積しています。
この機会にぜひ、この問題を考えてみてください。
小論文にまとめることを勧めます。
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難題ですが、さまざまなことを知るいい機会になると信じます。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。