【小論文の基礎】考えるということの意味とその具体例を繋ぐのは難しい

小論文

パンセ

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回はパスカルの『パンセ』の要約を課題文にした問題を考えます。

理科で習ったパスカルの定理を知らない人はいないでしょうね。

17世紀に活躍した哲学者であり物理学者でもあります。

早熟な人でキリスト教神学や数学にまで、その研究は及びました。

彼の代表作は『パンセ』です。

日本語では『瞑想録』と訳されています。

この著作はパスカルが時々に考えた哲学的な内容を一冊にまとめたものです。

その中で最も有名フレーズが次の一節です。

「人間は考える葦(あし)である」というのがそれです。

葦というのは川原などの湿地帯に生えるイネ科の植物です。

成長すると2~3メートルにもなります。

風が吹くと倒れてしまう本当に弱い植物です。

パスカルは人間をその葦にたとえました。

人間は弱い生き物ではあるが、唯一「考える」ことができるというのです。

本能だけで生きている他の生物と違い、人間の最大の能力はまさにこの「考える」という一点に凝縮されるのだと主張しました。

今回の問題はここに集約されたものということがいえるでしょう。

けっして難しい内容ではありません。

課題文を読んだときに意外性がないという意味では、書きやすいテーマの部類に入ります。

しかし設問を読むと、なかなか一筋縄ではいかないということがわかります。

設問は以下の通りです。

あなたは入学後、本校においてどのような学校生活を過ごしたいと考えていますか。

次の文章を参考にして、「思考すること」に触れながら、具体的な場面を挙げて述べなさいというものです。

キーワードは「具体的な場面」という言葉でしょうね。

これをきちんと上手にまとめて書かないと、評価は一気に下がると考えられます。

以下に課題文を載せます。

しっかり文意を読みとってください。

課題文

人間は川原に生えている葦のような存在にすぎず、自然界では最も弱い存在である。

しかし、それは思考することができる葦である。

宇宙が、葦のような存在である人間を押しつぶすために武装しようとしても、それは無駄である。

宇宙にしてみれば、人間を押しつぶすためには、わずかな蒸気の力や一滴の水で十分であろう。

しかし宇宙が人間を押しつぶそうとしても、人間は自分が死にかけていることや、宇宙がその人間に対して持っている利点を思考により理解することができる。

思考することができるという点で、人間は宇宙よりも高貴な存在なのである。

宇宙は思考することができないので、そのようなことを何も理解することができない。

このようなことから、私たちのすべての尊厳は思考することにあると言える。

私たちが行動しようとするとき、まずすべきことは思考することである。

よく思考することに努めよう。

これは道徳の本源である。(パスカル『パンセ』より要約)

文章の捉え方

最も大切なポイントはどこから書き始めるのかということです。

思考することが大切なことは誰でもが知っています。

しかしそれを上手に機能させていくことは、容易ではありません。

何が問題なのかが見えれば、誰でもその方向に向かって進むことが可能です。

ところが多くの場合はそれが何かわからないのです。

思考することが全くつらいワケではないとしましょう。

ただし適切に課題に対処するには、その問題点を掴み取る必要があります。

人間は自分がおかれた立場を正確に判断できない時、どうしても曖昧な態度を取りがちなものです。

時間が経つうちにモチベーションが下がり、何もしたくなくなってしまいます。

よくあるパターンですね。

学校生活の中で「思考すること」といったら何でしょうか。

Wokandapix / Pixabay

最大のテーマはやはり勉強でしょう。

学習すること、そのものです。

さらに先生、友人などとの関係も非常に大切です。

その他の活動としてはクラブ、委員会、行事、社会体育、ボランティア活動なども考えられます。

それらが順調に進行していれば、特に問題はありません。

逆に何らかのトラブルに見舞われたとき、どうするか。

自分がよかれと思ってしたことが、予想と違う結果を招く。

複雑な人間関係の中で、解決の糸口を失ってしまうことが十分に考えられます。

学習も同様です。

順調に進んでいたのに、突然理解が不能になる。

やる気を失い、成績が目にみえて下降するなどということもあります。

友人関係の不調から不登校気味になったり、学習への動機づけができなくなることもあるでしょう。

思考習慣の大切さ

この課題の場合、具体的な例をきちんと掲げる必要があります。

書かなければ評価は下がります。

ただし字数が600字なので、具体例に関していえば、150~200字が限度ですね。

それ以上書くと、構成が壊れてしまいます。

できたら150字以内で書くことです。

会話などを入れて文章を間延びさせてはいけません。

地の文だけでまとめること。

よく言われることに「考えるべき問題」と「考えても仕方がない問題」を見極めるというのがあります。

geralt / Pixabay

あるいはテーマを分割するという方法もあります。

切り分ける能力も、思考力の持つ大きな力です。

さらに問題をもっと自分にひきつけることも大切でしょう。

目標に向かって、ただちに今やるべきことと、少し先にやることです。

その判断を思考力の中に組み入れることを論じてください。

思考力を上げるために必要なのは、「自己との対話」です。

難しくいえば弁証法的思考ということでしょうね。

常に一歩上の状態を目指すのです。

弁証法などという言葉を知らなくてもかまいません。

自分の考えと他者の考えを比較しながら、より高次の結論を引き出していくのです。

自分の脳内でつねに議論を戦わせながら、思考を進めていくことです。

その際、他者との距離感を縮めすぎていたことに、気づくこともあるでしょう。

反対の場合もあり得ます。

全てを他人ごとにしないという覚悟も大切です。

いずれも自分が今後の学校生活で大切にしなくてはならないことです。

いろいろなことを考えているうちに、過去の例が1つ出てくれば、それで十分です。

ポイントは書きすぎないことです。

そこで「思考すること」の大切さを学んだでしょうか。

その題材で書けそうだったら、上手にまとめてください。

人間は考える葦です。

考えない人間は、最も大切な能力を使っていないということになるのです。

そのことをきちんと論じてください。

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基礎的な小論文ですが、案外まとめるのは難しいです。

今回も最後までお付き合いただき、ありがとうございました。

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