トレードオフ
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は2022年度慶応大学SFCで出題された「トレードオフ」という言葉の内容をチェックしていきましょう。
あなたはこの言葉を聞いたことがありますか。
実際の問題は長文です。
この文章をみただけで、誰もが制限時間内に読んで書き切れるかどうか、考えこんだと思われます。
設問の前に学部の設立コンセプトが示されています。
その後にトレードオフの簡単な解説と問題があるのです。
SFCでは、問題発見、解決型教育を実践してきましたと最初に示されています。
型にはまらない学生を歓迎しているのだといいます。
だからあなたもそういう答案を書ける人間であるべきだ、というある意味での挑戦状と考えてもいいかもしれません。
そこからトレードオフの解消についての説明が続くのです。
読むだけでかなりの時間が必要です。
しかし、この文章を全部読んでから解答を書くのは避けたほうがいいでしょうね。
最初に、概観をきちんと頭の中に叩き込まなければいけません。
どういう意味でトレードオフという言葉を使っているのかを、理解しないで進むのは危険です。
ここでは寒がりの人をどのように扱うべきなのかという卑近な例を挙げています。
ここでは3つの方法が示されています。
1 部屋の温度を上げる。
2 その人がある程度我慢できるレベルまでの温度ギリギリにセットする。
3 寒がりの人の体質を調べ、その後に適切な処置を施す。
リスクの捉え方
この問題ではじめて、トレードオフという言葉を知ったという受験生も多いでしょう。
ある行動をとれば当然、それに付随したリスクが伴います。
1つをとれば1つがとれないという簡単な図式です。
それをトレードオフと呼ぶのです。
ここでの例で具体的にみてみましょう。
1の方法は典型的なパターンです。
部屋の温度をあげれば、寒がりの人は快適になり、問題は解決するかもしれません。
しかしエネルギーの消費は明らかに拡大します。
2は限界ギリギリの温度なので、作業効率が著しく下がります。
3は時間的なロスや問題解析の手数などが次々と付随します。
もっとわかりやすいトレードオフの例をあげましょう。
車の運転を考えてみます。
スピードを上げれば目的地に早く着くことが出来ますね。
しかし事故を起こす確率も高まってしまいます。
この場合、「スピード」と「安全性」はトレードオフの関係にあるといえます。
トレードオフとは、簡単に言うと「何かを得る時には、何か別の物を失う」ということです。
たとえば、金銭を得ようとして働いた場合には、何を失いますか。
自由な時間です。
「trade off」という言葉は経済学の考え方から派生したものです。
取り引きは「売る人」と「買う人」の交渉から始まります。
しかし互いに条件を譲らなければ、その場で交渉は決裂します。
その状態をトレードオフと呼ぶのです。
少し理解できたでしょうか。
ビジネスの場合
なぜこの表現が目立つようになったのかといえば、それは経済学な観点から商取引が行われる時代になったからです。
コンピュータベースで進む、グローバルな環境が構築されたのです。
リスクをなるべく少なくして、利潤を増やす。
この視点が今の時代には大きな意味を持ちます。
1番わかりやすいのは価格と品質の問題です。
消費者を満足させるために企業は「品質」の向上をはかります。
しかし他社に負けないためには「価格」を抑える必要があるのです。
消費者にとって価格は安い方が喜ばれます。
ところが良い商品を安く提供しようとすれば、利益が縮小します。
これが最もわかりやすいトレードオフの関係です。
もしも「高い価格」で「一定の品質」のものを売ろうとするのなら、どういう手段があるのか。
そこにはさまざまな付加価値が必要です。
有名なキャラクターの景品がついてくるとか。
駐車場代が無料で、広い飲食スペースや子供を遊ばせる広場がある、などの快適な空間がが約束されているなどです。
子ども連れで来やすいというのもありますね。
価格は安くなくても、快適に過ごせるから重宝するという考え方もあります。
その他、需要と在庫の問題はどうでしょうか。
注文に対応するためには「在庫」を多く抱えておかなければなりません。
しかし保管するには人件費、倉庫代などがかかります。
つまり「需要」と「在庫」はトレードオフの関係にあると言えるのです。
もっと卑近な例をあげれば「経済成長」と「環境破壊」です。
経済を成長させるためにはエネルギーを消費します。
しかしCO2の濃度を下げなければ地球温暖化は止まらないのです。
このテーマはよくミクロ経済学の「機会費用」と一緒にして語られることもあります。
ただし機会費用はある選択をした時の金額に必ず換算します。
ある行動の選択によって失われる、他の選択を選んでいれば得られたであろう利益のことをいうのです。
例えば、高校を卒業した後、「大学に通う」「就職する」という選択肢があったとします。
その場合、「大学に通った場合」の機会費用とは4年間働いたとしたら得られたであろう所得、および知識、スキルなどを金額にしたものをいうのです。
トレードオフは、「何かを得たら何かを失う」状態を指す言葉で、両立が難しい場合2つを表す際に使われます。
費用に関しては数字をはじきだすことはしません。
問題例
22年度SFCの問題では次の3つのトレードオフの例が示されています。
1 株主利益と顧客、従業員の利益
株主の利益を優先させれば、企業は顧客や従業員への支払いを少なくする経営目標が理想的となります。
その一方で、企業は社会の公器ということになれば、従業員を大切にした上で、顧客を大切にすることが理想的となります。
2 医療情報と個人情報の紐づけと情報漏洩
医療情報と個人情報を紐づければ情報の効率的運用が可能となります。
デジタルデータにより、あらゆる情報を一元管理した場合はどうなるのか。
そのデータが人為的に、あるいは、サーバーへの攻撃などにより流出した場合は、大規模な個人情報流出という問題につながるリスクが生じます。
3 在庫の増加に伴うリスク増大と顧客のニーズ
経営上は、商品在庫が企業の競争力の源泉です。
在庫数は顧客のニーズに応える重要なファクターなのです。
一方で、商品在庫を増やすことで、在庫コストは増加します。
コストの増加は、売値の下落、品質の劣化、廃棄損などのリスクにつながります。
ここから対策案の方向性を選ばなければなりません。
どのような方法が考えられるのでしょうか。
ポイントは次の3つです。
これは最初に載せた寒がりの人の例と重なってきます。
A 優先度の高い目標の達成度を高める方法。
B あらゆる点で多くの関係者が最低限満足できる方策を採用する案。
C すべての目標について達成度が高まるものを新たに考案する。
この3つの方法論について論じていく必要があります。
いずれにしても難問です。
実際の問題にあたってあなた自身の答案を作ってみてください。
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問題は代ゼミ編『新小論文ノート2023年度版』に掲載されています。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。