ミクロ経済学
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回はユニークな小論文の過去問を紹介します。
新宿高校は経済学的な問題をよく出題します。
その中でも2020年度の入試は、ズバリ本丸をついたものでした。
もちろん、受験生は中学3年です。
経済学の知識がほとんどないという前提で、きちんと用語の解説をしてから設問が提出されています。
しかし、経済に疎い人にとっては、かなり唐突な印象を受けるでしょうね。
内容は、ミクロ経済学の勉強をしている人にとっては初歩のレベルです。
ところが中学生にとっては難問であることにかわりはありません。
ミクロ経済学は最小単位の消費者と生産者の関係だけに着目する分野の経済学です。
もっとも小さな視点を基本とするところから、この名前がついています。
経済学の基本なのです。
しかし、ここに示された観点から眺めると、日常生活が違ったものに見えます。
実に興味深い分野です。
さっそく実際の入試問題がどのように出題されたのかを見てみましょう。
問題1
最初に太郎君の日記の一部分があります。
これを読み、問いに答えなさいというものです。
今日の午前中は、家の手伝いをしてお小遣い2000円をもらうことになっていたが、友達から割引券があるから映画を見に行こうと誘われた。
手伝いを弟に譲り、映画に行くことにした。
映画は予想以上に面白くて、お小遣いは惜しかったけれど、弟に代わってもらって正解だった。
映画館に行くのに定期が使えなくてバス代が往復で400円かかった。映画のチケット代は1500円のところ1000円で見られた。
これが全文です。
問題は以下の通りです。
日記の文章中で、太郎君が行動を選択した結果により発生する機会費用として最も適切なものを、次のア~オの中から選びなさい。
問1
ア 家の手伝いをしたら得られたであろう2000円と、映画のチケット代1000円と、映画館までの往復のバス代400円を合計した3400円。
イ 家の手伝いをしたら得られたであろう2000円から、映画のチケット代1000円と、映画館までの往復のバス代400円の合計を差し引いた600円。
ウ 家の手伝いをしたら得られたであろう2000円。
エ 映画のチケット代1000円と、映画館までの往復のバス代400円を合計した1400円。
オ 機会費用は発生しない。
ここで機会費用という言葉が登場します。
意味が分からなくては解答できないので、説明があるのです。
機会費用とは「ある行動を選択した場合に、別の行動を選択したなら得られたであろう利益」をいう。その得られたであろう利益を損失と考え、金銭や満足感も含まれるものとする。
また機会費用を考える際、選択する行動の間には「一方を選択すれば、もう一方の行動をあきらめなければならない」というトレードオフの関係が成立する。
解説はこれだけです。
さらにもう1つ問題があります。
問2
次のア~オの説明文のうち、機会費用が発生する例として適切でないものを1つ選びなさい。
ア 大学を卒業しても就職せずに、大学院へ進学すること。
イ 漁師がとった魚を自分で食べずに、市場で販売すること。
ウ 定年退職後に再就職せずに、ボランティア活動に専念すること。
エ 花粉症の季節にマスクを購入せずに、屋内で過ごすこと。
オ 使わなくなった家具を粗大ごみとして処分せずに、フリーマーケットで売ること。
どうでしょうか。
理解できましたか。
頭の柔らかい中学生の方が、すぐに解けるかもしれません。
じっくりと考えて答えてください。
埋没費用
もう1つ別の問題があります。
これについても考えてみましょう。
太郎君の日記
午後、新宿アリーナでのライブ。
帰りの混雑を予想して電車のフリー切符を買った。
普通に切符を買えば840円のところ、800円で買えた。
このライブはもともと10000円を出しても行く価値があると思っていたくらいだが、払い戻しができないファンクラブ限定の特別前売り券を5000円で買うことができた。
それなのに、①「会場に到着してみると、なんと当日券が7000円でまだ販売されていた。」
設問は以下の通りです。
問3 日記の文章中、①の時点での埋没費用に該当するものとその金額を示しなさい。
問1、2と同じように語句についての設問が次にあります。
埋没費用とは「過去に支出された資金や労力のうち、回収することも取り消すこともできない費用」をいう。
新たな選択や決定を行う際にはこの埋没費用を無視することが経済学的には合理的とされている。
それにもかかわらず費用として意識されるため、その後の意思決定に悪影響を及ぼすことがある。
これが説明です。
最後に小論文の問題があります。
問4 日記の文章において、太郎君は新たに当日券を購入してライブを見た方がよいのか、それともライブを諦めた方がよいのか。
どちらかを選択することが経済学的に合理的かどうかを埋没費用の考え方に触れながら、100~125字以内で書きなさい。
というのが最終的な設問です。
トレードオフ
人間は何かを手にするために、当然別の何かを諦めなければなりません。
その連続で生きているのです。
同時に2か所へ行くことはできません。
必ず1つを選べば、1つを失います。
この関係をトレードオフと呼びます。
機会費用 というのは「ある行動をとったために得ることができなくなった最大利益との差額」をさします。
少し複雑ですね。
もう少しわかりやすく説明しましょう。
単純な例をあげます。
たとえばAという仕事とBという仕事があると考えてみます。
この仕事はどちらか片方しかできません。
Aという仕事をして100万円の利益を得たとしましょう。
ところがBを選んだ場合、利益が150万円になる見込みでした。
結局、50万円を損したことになります。
この場合の各費用はどうなるでしょうか。
経済学上の費用 = 150万円
会計上の費用 = 100万円
機会費用 = 50(150-100)万円
稼げたであろう利益を50万円逃したということになります。
例えば、4年間の大学進学費用に500万円かけたとします。
しかしこの4年間働いたならば1000万円稼げたとします。
機会費用は幾らになりますか。
稼げたであろう最大の金額は1000万円です。
機会費用 = 1000万円
この場合、500万円は学費に支払っていますから、合計した額以上の生涯賃金を稼げなければペイしないということになります。
ただし単純に賃金だけで判断できないところに、この問題の難しさもあるのです。
それが問4の設問に直結しています。
じっくりとこの問題の意味を考えてください。
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最近の都立高校入試ではここまで問われるということの1例です。
今回も最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。