新宿高校の推薦入試
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は令和3年度に出題された新宿高校の推薦入試問題について考えます。
毎年、多くの受験生を集めることでよく知られています。
近年は5~6倍の倍率を保っています。
卒業後の進路実績もよく、歴史があることから人気がありますね。
推薦入試は小論文と面接、さらに内申書という3点セットで合否が決まります。
一般入試よりも1か月ほど、試験日がはやいので、ここで合格すると気分的に非常に楽になれます。
もちろん合格したら、必ず入学しなければなりません。
そういう意味では厳しいですが、ある意味おいしい入試でもあるのです。
推薦の試験問題は学校によって全く傾向が違います。
それぞれの学校のサイトなどに過去問が載っているケースが多いので、必ずチェックしましょう。
新宿高校の場合、近年は大問が2つ出題されるケースが多いようです。
その中に小問が2~3あります。
順番に答えていけば、最後の200字~300字の小論文に辿り着くという形式です。
長い文章を書くワケではないので、きちんと内容が整理されていれば、怖れることはありません。
近年はグラフを読み取る経済学的な問題が頻出しています。
元々、中学校ではほとんどやっていない分野なので、ある程度の練習が必要になるでしょう。
ここでは令和3年度の問題を扱います。
今後、数年にわたる問題を解説する予定にしています。
雇用型式の問題
令和3年は大問が2つでした。
1つは今回取り上げる働き方改革の内容に関わるものです。
もう1つが和食の献立を自分で計画するというユニークな問題でした。
あわせて50分です。
正直にいって、かなり脳の切り替えが素早くないと、対応ができないと思われます。
労働と和食という全くジャンルの違うテーマだけに、とまどった受験生も多くいただろうと察します。
それも含めて、素早く問題を解く能力が要求されているのです。
はやく決まるからおいしいなどと暢気に構えてはいられません。
生き馬の目を抜く試験だと考えておいたほうがよさそうです。
それでは実際の問題をここに掲載します。
問題にはこれから示す表と、ここには載せていない資料1(学士課程入学者における25歳以上入学者の割合の国際比較)と資料2(日本の雇用形態別賃金)があります。
資料1によると、25歳以上で大学に入学する人のOECD平均が16.6%なのに対して、日本はわずかに2.5%です。
つまり年齢を重ねてから大学に入る人の数が、日本では極端に少ないということです。
資料2も棒グラフです。
これによれば、正社員は60歳になるまで、賃金の上昇があります。
それに対して、非正規社員は最初から60歳になるまで、ほとんど変わりません。
実際の設問
入試で出された問題をそのままここに載せます。
じっくりと読んでください。
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近年の働き方改革の議論や感染症対策で推進されるテレワークの実施などで、企業による雇用のあり方も変化している。
これまで日本は「メンバーシップ型」の雇用が多かったが、欧米に多くみられる「ジョブ型」を採用する動きが増加している。
両者を比較する次の表と資料1、資料2をみて、あとの問に答えなさい。
メンバーシップ型
日本の大企業の正社員に多い。
仕事の内容 入社時には決まっていない。
人事異動で異なる職務(仕事の内容)も経験する。
年功序列型が多く、一般的には正社員か非正社員かで差がある。
卒業時に一括して採用する。
勤務地 異動、関連企業への出向あり。
雇用保障 経営が悪化しても簡単に解雇されない。
ジョブ型
欧米諸国や日本の非正社員に多い。
仕事の内容 会社に入る段階で決まっている。
職務が固定している。
賃金 仕事の遂行能力で決まる職能給が多い。
職務によって決まるため、勤務年数や正社員、非正社員かは関係ない。
採用 欠員が出た時に採用する。不定期採用。
職務が無くなれば解雇される。
社内教育は少ない。
設問 あなたは、メンバーシップ型とジョブ型のどちらが好ましい働き方だと考えるか。
表で示したそれぞれの特徴から、その根拠を2つ以上指摘しながら220字以上240字以内で論じなさい。
なおその際、自分が選んだ型が抱える社会的な課題に関連する資料を資料1か資料2の2つから1つ選び、その課題に触れるとともに、課題の解決方法も指摘すること。
キーワードを探す
この問題の難しさは、受験生が実感を持って答えられないというところです。
日本の企業の雇用の形まで、中学生に答えさせるのはかなりの勇気がいるからです。
ポイントはキーワードを自分なりに探すことです。
いくつか考えてみましょう。
国際競争、グローバル化、正社員と非正規社員、年功序列型賃金、職務などです。
どこが1番のポイントなのか。
これからの時代は「ジョブ型雇用」に転換していくべきかという疑問が最初に出てきます。
なぜか。
グローバル競争が激化しているのが世界の現状だからです。
大手企業、たとえばGAFAなどでは2年単位で勤め先を変える人がたくさんいます。
人生100年時代を見据えた時、日本型の従来式雇用ではとても戦うことはできません。
ジョブ型への移行は既定の路線なのです。
政府も経団連も、ジョブ型への拡大を提唱しています。
さらにコロナ禍においても、ジョブ型の働き方とテレワークの導入、定着は相性がよかったのです。
理由はなぜでしょうか。
ズバリ、企業にとっての効率性です。
そのための機運はいっそう高まったと言えるでしょう。
しかし現実はどうか。
日本の大手企業はメンバーシップ型が殆どです。
大学生のリクルートをみれば、それがよくわかります。
卒業をひかえた学生は、スーツに着替え、内定をとるために各社を回ります。
成果主義をとった会社もかつてはありました。
しかしなかなかうまくいかないのが実態なのです。
本格的にジョブ型雇用を進めるとどうなるのか。
現在の中高社員との間に軋轢が生じます。
激化していくグローバル競争下で専門性が必要であることも、経営者たちはよくわかっているのです。
優秀な人材を適材適所に配置し、効率のいい経営を行う。
これがジョブ型人事のわかりやすさです。
ただし「高い専門性」を持った社員が、かつてのメンバーシップ型の社員との間に軋轢を生むことも容易に想像されます。
しばらくはつづくツギハギ状態を乗り越えて、少しずつジョブ型に転換していく以外に道はないと思われます。
しかしそれが容易でないということも、日本の現実なのです。
問題意識をきちんと持っていれば書けます。
ただしリアリティをどこまで正確に描けるか。
こうなればいいといった思想論だけに走ると、足元をすくわれます。
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十分に注意してください。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。