自分探し
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は「自分探し」とは何かというテーマで考えます。
この小論文には2つの問いがあります。
最初に書いておきましょう。
問1 「自分探し」とはそれ自体が陥穽であるとはどういうことを意味しているのか。
100字以内で述べなさい。
問2 あなたはこれまでに「自分探し」を意識したことはありますか。
あなたが「自分探し」を意識した(あるいはしなかった)のはなぜか、ということを考えた上で、論者の主張を踏まえながら「自分探し」について800字で論じなさい。
この課題文は哲学者、池田晶子の文章です。
非常にわかりやすく、読みやすいのですが、内容はとても深いです。
今日、「自分探し」という言葉をよく耳にしますね。
誰もがそこに向かってひた走っています。
しかし彼女はそれがはたして必要ななのかという問いを投げかけているのです。
この場合、課題文の捉え方としては2通りのやり方があります。
その疑問は正しいとするのと、そうではなくやはり「自分探し」は必要だとする考え方です。
もし筆者の論点に乗るのだとしたら、アイデンティティの確立はどうすれば可能だと考えるのかを示さなくてはなりません。
真っ向から反論するとしたら、本当に探すにたる自己がどこにあると考えているのかを明らかにする必要があります。
さらにいえば、「自分探し」を意識したのはどのような時であったのかをきちんと明らかにすることも大切です。
もちろん、しなかったとすればその理由も明らかにする必要があります。
いずれにしてもどちらかの立場を明確にして、まとめるしかありません。
次に課題文の1部を掲載します。
読んでみてください。
課題文
自分は何であるのかわからないということは、認識の終極、すなわち存在の真実であり、その意味で素晴らしいことなのだ。
なのに、人は多く、自分は何かであるはずであり、また何かでなければならないと思っている。
この場合の「何か」とは、では、あらかじめの何であるはずなのだろう。
そもそも、自分であるとは、どのようなことであるはずだと思っているのだろう。
世にいう「自分探し」というものが、「探す」というその額面どおりに行われているらしいことが、そこの事情を端的に語っている。
人は、自分を探しに、どこかへ出かけていくのである。
あるいは、出かけはしなくても、あれこれ行ってみるのである。
アイデンティティの確立していない青少年に限らない。
中年を過ぎ、初老にもいたろうかという人々が、「本当の自分は」こんなはずではない、「本当の自分は」どこにいるのかと、どこかへ出かけて、あれこれ行なっているという。
(中略)
自分とは何であるか、正しく問うための問いの形はこうである。
自分とはあれこれ探し回るものだと思うことによって、人は自分を何らかの社会的なアイデンティティであると認めていることになる。
しかし人は、そのような社会的なアイデンティティを自分とは認められないから、本当の自分を探しているのではなかったか。
探す以前に知るべきなのは、「本当の自分」すなわち「自分」という言い方で自分は何を言っているのか、言いたいのかというこのことなのだ。(中略)
何かある性格を自分であると認めるためにも、自分とは何であるかが先に知られていなければならないはずだ。
どこか外へ探しに行くにも、内向きにそれを探すにも、探しているものの何であるかをまず問わなければならないことにおいて、同じなのである。
自分探しとはそれ自体が陥穽である。
探している自分はここにいる。
この当たり前すぎる事実に拍子抜けするように気づいたとき、人はやみくもに探すのをやめ、着実に考え始めるはずなのだ。
要約を短時間で
この文章は一見読みやすい、やさしい言葉で書かれています。
しかし侮ってはいけません。
探している自分が本当はどこにいるのかというのが、根本の問題です。
この当たり前すぎる真実にどう向かうのかによって対立する場面がでてきます。
問1について最初に考えましょう。
陥穽という言葉がわからなかったら大変ですね。
落とし穴のことです。
どこが最もマイナスな表現の部分かを探してください。
今、ここにいる自分以外に本当の自分はいないという事実が1つ。
さらにそれを無理に別の場所にいると信じて追いかけても無駄になり、かえって自分を見失うということが次に書けていれば十分です。
問題はやはり問2でしょう。
800字の問題はよく出題されるパターンです。
この文の場合、筆者の論点に対して賛成か反対かでかなり違う内容になります。
結論からいえば、どちらでもかまいません。
筆者の論点の通り、自分探しには意味がないという視点が1つ。
もう1方は「自分探し」をするため、広い世界に出ていくことは意味があるという立場です。
あなたにはどちらがしっくりきますか。
究極の差は「自分探し」には意味があるかないかということになります。
問題の指示に忠実に
この問題の場合、かなり詳しく論点を整理できるような指示がでています。
これが最大のヒントです。
絶対に守って下さい。
何を文中に入れるのか。
これまでに「自分探し」を意識したことはあるかないかを、最初に書く必要があります。
これがないと明らかな減点です。
どういう時に自分探しをしたのか。
あるいはなぜずっとしなかったのか。
その場面が目に見えるように書いてください。
例えば、大学の専門分野を決めるとき、本当に自分は何をして生きていきたいのかを考えたとしましょう。
三者面談が終わった後、両親と話し合った記憶でもかまいません。
あるいはボランティア活動に参加した時から、ずっと考えてきた人もいるでしょう。
理想の自分と現在の自分とのギャップに苦しんでいるという日常も、十分に想像できます。
あまりにもいきすぎたアイデンティティ探しに疲れ果てた、という回想もあるでしょうね。
どのようなものでもかまいません。
正解はないのです。
その後に筆者の主張を踏まえることが大切です。
書き出せばあっという間に800字くらいになります。
きちんと論点を整理して、最後の結論まで書ききってください。
アイデンティティの問題は永遠です。
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しっかりと準備をしてまとめる努力をしてみましょう。
期待しています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。