全国学力調査とPISA
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は今年の5月に行われた全国学力調査の結果について分析してみます。
これは小学6年と中学3年生を対象に毎年行われているものです。
昨年はコロナの影響で中止になりました。
つまり2年ぶりの実施だったのです。
よく話題になるPISAという試験がありますね。
ご存知ですか。
国際学習到達度調査というものです。
OECDが進めているこの試験には日本も参加しています。
調査は15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、3年ごとに実施します。
次回の予定は2022年です。
前回の時は国語力などに低下がみられ、それが大学入試の作問に大きな変化を与えました。
英語の外部試験導入の可能性などについても、隋分マスコミを騒がせましたね。
記述式への流れがはやまったとも言われています。
さて今年行われた全国学力調査とPISAの結果との関連は、どんなものだったのでしょうか。
気になるところです。
ここでは中学3年生の国語の試験について、少し考えてみましょう。
試験内容は各校代表によるテレビ会議での意見や資料の問題でした。
SNSでの言葉の使い方についての意見文の問題なども出ました。
今まで以上に日常の場面で複数の情報から、課題を解決する力を問うタイプの問題が多く出題されたのです。
これは大学入学共通テストと同一の路線上にあるものです。
以前なら設問は小説、評論などが中心でした。
しかし近年、明らかに流れが変化しています。
分析結果
公立校の平均正答率は小学校6年は前回並みでした。
しかし中学3年生は8.3%下がり、どちらも64.9%だったのです。
もちろん問題の難易度にも違いがあり、もっと低い年もあります。
数字だけで一喜一憂しても意味がありません。
問題は内容把握能力や発信力が、どのように変化しているのかを継続的に見ていくことでしょう。
出題内容についてはある程度把握できていたようです。
しかし目的をもって文意を読み取り、考え、意見を示す力が低かったのです。
この点は2003年以降、国際学習到達度調査(PISA)で指摘された課題と同じです。
大きく改善したという結果にはなっていません。
授業内容も今後さらに変革をしていかなくてはならないでしょうね。
基本は低学年からの調べ学習です。
自分で問題意識をもって、積極的に調べていくタイプの勉強が必要です。
中学生レベルでは新聞などの資料と比較するのも大切です。
先生が黒板に書いたことをそのまま写すといったような授業では、発信力がなかなか養えないでしょう。
段落分けをして、意味を調べることももちろん大切です。
しかしそれだけではもう不十分です。
自分で疑問点を探し、インタラクティブに相互で意見を交換する必要があります。
しかしこれを実際の授業で行っていくのは、大変なことなのです。
やってみればすぐにわかります。
問題意識をきちんと持ち、その解析ができる生徒はそれほど多くはありません。
高学年では質を高める段階的な授業展開が必要なのは、今や常識です。
しかしその実践には多くの障壁があります。
蔵書数と学力
文部科学省は今回、全国学力調査と同時にアンケートを行いました。
自宅にある本の数について尋ねたのです。
本の数は国際学力調査で、文化階層を示す質問として注目されてきました。
漫画、雑誌を除いて実際の生活の中にどの程度、本が浸透しているのかを調べたのです。
全国学力調査で本棚の絵を示して質問したところ、10冊以下と答えた子供が小学校で11%、中学校で14.4%と1割強でした。
25冊以下だと小学校29.8%、中学校34.0%と約3割を占めました。
学力との関係については、たとえば小学校の国語の場合、0~10冊が平均正答率53.8%に対し、500冊以上が71.2%と明らかな相関関係が確認されました。
実は国語だけでなく、数学でも蔵書数との関係は顕著だったのです。
ここでの本は数学関係のものを意味していません。
ポイントは内容を理解する国語力の問題です。
あなたは500冊の本がある家のイメージが浮かびますか。
大きな本棚が2~3つくらいは必要でしょう。
そこにさまざまなジャンルの本がつまっているとしましょう。
読まなくてもいいのです。
そこにあるということが、大きな意味を持っています。
つまり親が日常的に読書をしている姿を、子供は見ています。
特別のことではありません。
空気を吸うように誰かが本を読んでいるのです。
当然その内容が話題にのぼることもあるでしょう。
論理的な思考力は活字を読むことで、着実に養われていきます。
映像だけでは無理です。
さらに自分から能動的に関わるという態度が大切なのです。
教育格差
このテーマは教育格差の問題と絡みます。
親の学歴や収入にも左右されるでしょう。
父親の学歴と子供の学歴の関連の強さは明白だと言われてきました。
大卒の父親の息子は、20代では8割近くが大卒です。
その一方で、非大卒の父親の息子が大学を卒業するのは4割程度です。
これは女性の場合でも同様の傾向が見られます。
家庭の蔵書数が多ければ、小さい頃からの読書習慣が学歴にも結びつくというデータもあります。
アンダークラスと呼ばれている階層については、耳にしたことがあるでしょう。
家に10冊以下しか本がなかった人の大学進学率は、23.1%に過ぎません。
一方、500冊以上あった家の子供は、76.4%が進学していたという分析があります。
子供に本を読み聞かせる心のゆとりが、学習習慣を育みます。
学校の図書館や地域の図書館に通う気持ちがあれば、それを補うことはできるでしょう。
しかし環境の影響は想像以上に大きいです。
この事実はどうしようもありません。
教育格差の原因が、単に金銭の問題だけでないのはよく知られています。
そこには自尊心の問題もあります。
子供が自分の存在を肯定的に捉えられる環境であれば十分なのです。
しかし親に自己肯定感がないと、子供は不安にかられます。
読書どころではありません。
今回文科省が調査した結果は、これから様々なところで見かけるに違いありません。
子供の能力は環境が決めてしまうのだといってしまえば、それまでのことです。
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文字で考えを述べる訓練は非常に重要です。
それが小論文を勉強していくことの意味でもあるのです。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。