対比と対立
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
勉強ははかどっていますか。
小論文は難しいですね。
いくらやってもちっとも上達しないと嘆いている人もいるんじゃないでしょうか。
今回はどこに着目したらうまく書けるのかについて考えてみます。
人間の思考パターンは常に対象物と比べながら対立を元にしているものが多いのです。
小説のタイトルをみてもそうですね。
スタンダールの名作『赤と黒』とは軍人(赤)と聖職者(黒)の服装の色を表していると言われています。
主人公ジュリアン・ソレルが自分の全知全能を駆使し、立身出世を果たそうとする物語です。
彼は最初に軍人をめざし、やがて聖職者として出世しようとします。
際立った対立がなければ、この名作は存在しなかったでしょう。
2つのカテゴリーの存在をかいくぐってストーリーが進んでいくのです。
小説のテーマとして生と死が扱われることが多いのも、この2項対立が人間の生きざまの基本だということからくるのです。
あなたが今までに読んだ小説のなかで、これだというものがあったら、少し分析をしてみてください。
そこには必ず対立の構図があります。
最初からすべてがうまくいっていれば、小説にはなりません。
大前提として葛藤が必要なのです。
その現象を生むための要素が対立です。
時間がある時に実証を試みてください。
それでは小論文ではどうなのか。
同じことがいえるのでしょうか。
光源をかえる
こちらはより論理性の強い文章が出題されるケースが多いです。
テーマによく取り上げられるものの1つに日本人論があります。
有名なイザヤベンダサン著『日本人とユダヤ人』はまさに2つの相反する民族の特性に着目した評論です。
聖書研究者であった山本七平がペンネームを使ってユダヤ人の特性を示しました。
逆にそれが光源となって、日本人の持つ性向がより明確に見えたのです。
あるいは李御寧著『縮み志向の日本人』も韓国人の目からみた日本人を論じています。
外国人が日本人を論じるという視点は、現在に至るまで大変に多いのです。
異なる角度から観察することの効果は、予測をはるかに超えています。
東洋と西洋を同時に見比べるという視点はそれ以前からずっと続いていますね。
夏目漱石は留学先のイギリスから戻り、日本および日本人の持つ特性を考え続けました。
それが彼を後年になって精神的に苦しめた原因の1つにもなっているのです。
ここまでみてきてわかるように、光源を別の場所へ移動することでより鮮明に状況がみえてくるという構図はたくさんあります。
小論文においてもそれは全く同じです。
課題文が出た時、キーワードを探すことは以前にも書きました。
そのポイントで、何と何が対立関係にあるのかに着目するのが大切です。
対比することで対立の構図が見えてくると、文章が書きやすくなります。
幾つかの課題文の構造を分析してみてください。
必ず対立関係を意識して書かれているものが多いのです。
それを見抜くことができれば、非常に文章をまとめるのが楽になります。
評論には最初に提出した内容を、途中でひっくり返すパターンもよくあります。
一般と特殊
常識的な考えをまず出します。
多くの人が納得する論点です。
途中で新しい意見を入れなければ、なんのために書いたものかわからなくなるからです。
後半で筆者は「本当にそうだろうか」と疑念を挟むのです。
確かにそういうことはあるだろうが、よく考えてみるとこういうケースもあるのではないか。
これが一般と特殊の関係です。
多くの人はこう思っているかもしれないが、そればかりではない。
次のようなケースをどう説明したらいいのか。
といったような文章の運び方をします。
そこから自分の新しい考えを披露していくのです。
個性を重視すればいいからと言って、このような状況まで個性と呼べるのか。
個人主義を過度に認めることで情報の集約が不可能になることもあるなどとさまざまな例を示しながら、対立軸を強調していきます。
逆にいえば、そこをきちんと読み取ることで、文章が理解できるのです。
書く時もそれは同様です。
採点者にアピールするためには、誰でもが納得する論理だけを中心に書いたのでは弱いです。
やはりそこに対比の視点を加え対立軸を注入するべきでしょう。
どこにそのための軸があるのかを最初に考えることが大切です。
課題文の中にある考えの中に、あえてNoを言った時、はたしてどのような反応が出てくる可能性があるのか。
それをある程度予測して文章を進める必要があります。
しかしそれで常に成功するワケではありません。
そういう時は、原点に戻りましょう。
どう書けばいいのか
対立の原則にあてはまる内容があるかどうか。
いつも必ずそこにあるとは限りません。
しかし課題文の中に潜んでいる可能性が高いのです。
どこかに潜んでいるかもしれません。
それを探しだすのも実力のうちです。
何度練習してみても、どう書いたらいいのかわからないという人もいます。
そういう時こそ、なるべく図式的な書き方を勧めます。
文字数が制限字数まで辿り着かない時でも、この方法で対比を進めると対立軸が見えてきます。
それだけ書きやすくなるのです。
ぜひトライしてみてください。
こちら側と向こう側を比べるだけで対立の構図が見えやすくなります。
世界と日本、現代と近代、今と昔、男性と女性、若者と高齢者、患者と医療関係者。
軸は幾らでも考えられます。
この図式にのっとれば、自分の立ち位置も見えてくるのです。
その時、その状況で何が主張可能なのかを考えてください。
あまり一般論にばかりこだわると、平凡な論点のつまらない文になってしまいます。
なるべく自分に引き付けて、対比をし、対立の構図を描き出してください。
言うのは簡単ですが、実際にやってみると苦労すると思います。
それでも練習を積み重ねているうちに、だんだん書けるようになるのです。
突然上手になることはありません。
らせん状にスキルが上がっていくのです。
気がついた時には、かなりの高みにいるということになります。
つねに別の何かと比べ、対立の概念を築き上げること。
これが小論文成功への秘訣なのです。
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いくらやっても書き方のコツがつかめない人は、是非チャレンジしてみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。