風が私を
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は数日前に行われた2021年度推薦入試の問題をとりあげましょう。
毎年話題になる都立西高校の小論文です。
短い警句のような言葉を元に小論文を書く問題が毎年ずっと続いています。
今年はどんな課題だったのか。
制限時間は50分。
字数は600字です。
さっそく問題をみてみましょう。
「ドアを開けると風が私を待っていた。だから私は黙って風に自分を預けたのだ。」という言葉について思ったことを書きなさい。
これが全てです。
この文章をどう解釈したらいいのでしょうか。
考えようによっては自由自在です。
複雑に考えてしまうと、かなりの難問ですね。
毎年、西高校では箴言とでも呼べるような短文が出題されます。
どこから切り取ればいいのか。
今年も受験生はかなり悩んだことでしょう。
もちろん模範解答はありません。
自分の知識や体験を総動員してまとめなくてはならないのです。
西高校は都立高校の中でも古い歴史があり、リベラルな校風で有名です。
その伝統を支える生徒が欲しいのですね。
何かを自分でつかんで展開していく能力を持った生徒を合格させたいのです。
伸びしろのある生徒
このような問題を毎年課すのは、この高校が新しい学びについてこられる柔らかい頭脳を欲しているからでしょう。
広い識見を持つ努力を続けなければ全く歯が立たない問題だといえます。
試みにチャレンジしてみてください。
なぜこの高校の入試問題に関心を持ったかといえば、受験を希望した生徒を指導したからです。
2か月間にわたって添削を続けました。
ここに挙げたほぼ全ての過去問をやったことになります。
参考までに取り上げておきましょう。
毎年本当に短いテーマだけがポツンと出題されるのです。
普通、小論文はかなり長い課題文があり、それをヒントにして文章を書き綴る様式のものが大半です。
しかし西高校の場合、そうではありません。
わずかな表現の中からキーワードをつかまえ、自分の実力を示さなくてはなりません。
もちろん何を書いてもかまわないのです。
全く正解はありません。
しかしそれだけにさまざまな能力が問われます。
外れたら大きな失点が待っているのです。
考えようによってはものすごく面倒くさい厄介な試験ですね。
どこから書いていいのか迷うに違いありません。
ここにいくつかの過去問をあげてみます。
最近は日本人のものが多いようです。
過去問一覧
令和2年
「わかりやすさ」の罠(わな)にはまらないようにするためには、やはり私たち社会を構成するひとりひとりが、「知る力」をもっと鍛えなければなりません。池上彰
平成31年
数について何かを発見するためには、数を転がして、ころころと手のひらで弄ぶことが一番重要なんです。藤原正彦
平成30年
問題を出さないで答えだけを出そうというのは不可能ですね。岡潔
平成29年
世界は『のっぺらぼう』である。西江雅之
平成28年
人生には二つの道しかない。一つは、奇跡などまったく存在しないかのように生きること。もう一つは、すべてが奇跡であるかのように生きることだ。アインシュタイン
平成27年
自分では前を見ているつもりでも、実際はバックミラーを見ている。マクルーハン
平成26年
私たちはしばしば、できないものを見つけることによって、できることを発見する。サミュエル・スマイルズ
平成25年
人間はその人の直面している条件に支配されてなどいない。むしろ逆に、その条件のほうにこそ、人間の決断いかんに支配されているのである。 V.E.フランクル
平成24年
単純であることは、究極の洗練である。レオナルド・ダ・ヴィンチ
平成23年
発見とは識別であり選択である。ポアンカレ
平成22年
生きるということは徐々に生まれることである。サン=テグジュペリ
平成21年
海のほか何も見えないときに、陸地がないと考えるのは、けっしてすぐれた探検家ではない。ベーコン
平成20年
人間はただ個体として存在しているだけではない。人間には、人と人のあいだ、自分と世界のあいだで生きる以外の生きかたはない。木村敏
平成19年
吾人は自由を欲して自由を得た。自由を得た結果、不自由を感じて困っている。夏目漱石
平成18年
自然は曲線を創り、人間は直線を創る。湯川秀樹
平成17年
人間は、努力するかぎり、迷うものだ。ゲーテ
平成16年
いわゆる頭のいい人は、言わば足の早い旅人のようなものである。人より先にまだ行かない所へ行き着くことができる代わりに、途中の道ばたあるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす恐れがある。寺田寅彦
平成15年
あらゆることの世界の基準が一つでないのだという視点は、二十一世紀になって強まってきている。池辺晋一郎
キーワードを探そう
どうでしょうか。
どの問題から始められそうですか。
いずれも文章が短いので、どう解答したらいいのか悩むと思います。
1つだけヒントを出すとすれば、まず自分なりにキーワードを探し、その周辺で実際に体験したこと、考えたこと、解釈可能な事実、言葉を探すことでしょうね。
難しい表現を駆使して、恰好をつける必要はありません。
等身大の自分を映すこと。
これが合格への最短距離だと考えられます。
西高校は他の高校と比べて調査書点の比率が低いです。
通常の高校では合否の50%を調査書にあてます。
しかし配点を見てください。
調査書および各試験の配点は以下の通りです。
・調査書(9教科の5段階評定の素点):360点
・個人面接(自己PRカード):240点
・小論文試験:300点
・計900点
比率は調査書が40%、小論文が33%、面接が27%です。
それだけ小論文に比重がかかっています。
これは非常にユニークな配点基準だといえるでしょう。
小論文試験について、高校側は「新しい表現に触れたときに、それをどう見て、どう受けとめ、どう考えるか表現してほしいという意図がある」と説明しています。
目の前の言葉と向き合い、それをどう受け止めたか、何を感じ、考えたかを述べることが大切なのです。
しかしただそう思ったからというレベルではNGです。
論理的な整合性を示しながら、採点者を納得させるだけの実質を持ち得なければなりません。
どの問題にチャレンジしても悩むと思います。
この文言を読んで何が言えるのかを考えるのは、かなりの国語力を必要とします。
必要なのは総合的な力でしょう。
かなりの広い知見を持っていないと、噛み砕くことができないです。
しかし考えようによっては逆転の可能性があります。
内申点が振るわなくても、小論文でいい点数をとれば、十分に合格の可能性があるのです。
そこにかけるような生徒を待っているとも言えますね。
学力秀才型の生徒も欲しいのでしょう。
しかし同時に発想の柔軟な生徒を求めているのです。
それでは今年の問題をもう1度みてみましょう。
「ドアを開けて待っている風」「黙って自分を預けられる風」とは何の譬えでしょうか。
ここを見誤ると苦しいですね。
先がありません。
今年は特に詩的な表現です。
「風」という言葉に対するイメージをどう広げたのかというところが採点の評価対象です。
特別な文章を書く必要はありません。
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自分の経験や希望を無理のない形でまとめればいいのではないでしょうか。
無理に肩肘をはって難しく書こうとする必要はありません。
部活動のことや学校行事で学んだことを自然に書き込んでいくという方法もあります。
難解な表現などを入れたために、文章がまとまらなくなるということも考えられます。
キーワードをどう理解したのか、どうしてそう思ったのかということをきちんとした文にしてまとめていくということがとても大切です。
やってみてください。
風を自分の進む未来の道に吹くものととらえることも可能ですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。