ドキュメント高校中退
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、ブロガーのすい喬です。
今回は高校生の中退について考えます。
10年前に出版された青砥恭『ドキュメント高校中退』は今も古びていません。
実に救いのない本です。
貧困が全ての原因であるといってしまえばそれまでですが、ここまで話が煮詰まってしまうと、もうどこにも脱出口が見えないのです。
格差問題が語られて久しくなりました。
今では誰もが知っているごく当たり前の現象になりつつあります。
ぼく自身、教師としてドロップアウトしていく生徒を何人も見送りました。
毎年どれくらいの生徒が学業途中でいなくなるのかご存知でしょうか。
平成30年度の調査によると、高校における中退者の数は、49000人弱です。
ピークは平成2年度でした。
年間12万人もの生徒が高校を辞めていったのです。
高校中退といっても、いま在籍している学校を辞め別の高校へ移れる人はまだいいのです。
現在では通信制高校がかなりの受け皿になっています。
以前よりはずっと敷居が低くなりつつあります。
かつては定時制に移れればいい方でした。
現在では高卒認定試験に合格して道を切り開くという方法もあります。
以前は大検と呼んでいた試験です。
大学に入るための資格をとるという前提の試験だったのです。
今は高校中退をリカバリーするための方法の1つとして定着しつつあります。
合格には必修科目のクリアが条件ですが、必修科目すべてを一度で合格する必要はありません。
1科目から受験でき、合格科目に有効期限もありません。
情報をきちんと集められる生徒にとっては、以前よりも門戸は開かれていると言えるでしょう。
ドロップアウトの理由
中退する理由としては「進路変更」が最も多く、全体の35.3%を占めています。
次に多いのは「学校生活・学業不適応」で34.2%です。
言葉にすれば確かにそういう表現になるのでしょう。
しかし現実はもっと複雑です。
高校を辞めていく生徒の家庭には、1人親の家庭も少なくありません。
もちろん、他にもたくさんの理由があります。
元々、中学時代から学校に十分適応できなかった例もあります。
離婚した母親達が働く場所も正規雇用でないケースが多いのです。
パートの収入には限界があります。
一方、父親だけの家庭も散見されます。
生徒は少しでも自分の小遣いが欲しくなれば、アルバイトへ走ります。
中学校との違いはアルバイトができるようになることです。
賄い付きの飲食店などは彼らにとって実にありがたい存在です。
元々、学業に対する意欲の低い生徒が多いのです。
学校で存在感を示すことが難しいという現実もあります。
クラブ活動に参加していないケースも多々見られます。
運動部であればユニフォーム、練習試合のための交通費、合宿費などかなりの出費も必要です。
その全てを親に頼るということも難しいのが現実なのです。
最初は頑張ろうと思って入部したものの、やがてそこから脱落しアルバイトに走るということもあります。
コロナ禍以前はかなりの人手不足でした。
ことに飲食店はアルバイトなしには稼働しないシステムになっています。
学校とは違う人間関係が新鮮だということもあるでしょう。
店長や責任者に認められ、自分の居場所を見つける生徒もいます。
夜遅くまでアルバイトをすれば、朝起きるのも苦痛です。
遅刻が増えると同時に、学校を休む日も出てきます。
最初は担任の先生も頻繁に電話をします。
しかしそのうち間遠になるのです。
中学校のように細かく生活指導をするということはありません。
家庭訪問まではなかなかできないのが現実です。
環境は選べない
多くの生徒は貧しい家庭に育ち、まともに勉強する機会など与えられていないケースが多いです。
わからないところがあっても、だれにも質問できる環境ではなかったのです。
もちろんそれだけが原因ではないでしょう。
しかしそばに頼れる人がいなかったという現実もあります。
学校のことにあまり関心を持たない環境にいたケースが多いのです。
中学時代はそれでも在籍していれば卒業だけはさせてくれます。
高校入試も以前とは違います。
ほぼ全入に近い状態です。
選ばなければ必ず入れるのです。
さらに公立はほぼ無償です。
私立も学費は補助が出ます。
制服と交通費さえあれば、入学は可能なのです。
それでも出費はかなりあります。
通学費、昼食代、行事参加費、教科書、ノート代など。
最初は頑張るつもりで入学したもののしばらく通うと夏休みがやってきます。
このあたりから生活がガラリとかわります。
髪を染める生徒も出てきます。
連休の頃からアルバイトを始め、いくらかまとまったお金を手にする生徒もいます。
欲しかったものが目の前にあるのです。
最初はバイクでしょうか。
女子ならまず欲しかった衣類と最新のスマホです。
やがて9月になり、2学期が始まります。
だんだんと休み癖がついてしまうのです。
今の高校は年間欠時数が法定の4分の1を超えると未履修ということになるところが多いです。
実際の授業時間でいうと、3分の1を超えるあたりでしょうか。
登校したりしなかったりしていると、11月頃までにはリミットを超えてしまいます。
担任の先生はそれまで何度も家に電話をし、親を呼び出し注意をします。
しかしアウトになったら、よほどの理由がない限り進級は望めません。
留年です。
素直に去っていく生徒もいました。
もう無理だと覚悟が決まっていたのでしょう。
別の高校への編入を希望するケースもあります。
学校を去る時の様子も千差万別です。
今は中退しても複数のルートがありますからね。
しかし新たに学費もかかります。
そのまま中退してしまう生徒もかなりいるのです。
貧困の連鎖
これが格差社会の現実です。
教師にはどうやっても手が出せないところです。
以前は収入の格差、学歴の格差などが日本をどのように覆っているのかというのが、格差論のメインテーマでした。
最近では女性同士の格差や、希望そのものの格差にまでその守備範囲が広がっています。
ジニ係数という特殊な関数を駆使して説明をしていた頃は、まだゆとりがあったのかもしれません。
しかし今はそれも遠いことのように思えます。
正社員になれない人の数が急激に増え、さらには学校を卒業しても就職できない現実があります。
コロナ禍でさらに厳しいことは誰もが知っている通りです。
高校に入学しながら、わずかの期間に中退してしまった生徒はその後どうなっていくのでしょうか。
低学力、学習意欲の欠如、生活習慣のなさ、親からのDVなど、原因はさまざまです。
これらが連鎖環となって襲いかかります。
少しでも家庭に教育力がある家の子は学校をやめません。
1度でも他人に褒められた覚えがあれば、あるいは親の愛情が感じられれば、なんとか踏みとどまります。
しかしそれなしに生きてきた生徒達は、あっと言う間に野に出ていってしまうのです。
中退した後の現実は過酷です。
正社員につくことはかなり難しいと考えなければなりません。
男子と女子ではここからまた大きく人生の形がかわっていきます。
入学式の日までに制服が買えず、退学していく生徒もいるというのがこの国の現実でもあります。
全てが自己責任という、甘い言葉で覆えるような現状ではないでしょう。
一方で教育費をふんだんに使える家庭もあります。
ますます格差が広がるというこの国の現実をどう考えたらいいのか。
貧困の連鎖を断ち切るにはどうすればいいのでしょうか。
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環境はあまりにも重いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。