資質の問題
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は医療従事者にとって最も大切な資質の問題を取り上げます。
患者と病院のあり方とともに、大きなテーマの1つです。
医療関係の仕事につきたいと思った瞬間から、人間性について考え続けてください。
これは偏差値や成績とは関係がありません。
その人が生まれた時から持っている人間に対する愛情の示し方の問題です。
もちろん、医療に携わる限り、最新の情報、技術を自分のものにしなくてはならないのは明白なことです。
それは常識のレベルだと考えてください。
つねに医学は進歩しています。
使わなければ治療が不可能な医療機器も増えていくばかりです。
その扱いも決して容易ではありません。
そのことは1番に解決されなければならないことです。
たえず研修の機会を得て、自分のものにしなくてはなりません。
ここで論じたいのはその先です。
患者は弱者ではありません。
以前ならば3時間待ちの3分診療に耐えた人たちも、今ではきちんと権利を主張します。
パソコンばかりを見つめ、患者をきちんと診ようとしない医療従事者は論外の扱いをされます。
医療過誤が発生すれば、泣き寝入りなどということはあり得ません。
損害賠償を求め、裁判が起こされる可能性もあります。
医療関係者たちのための病院から患者のための施設にならなければ、生き残れないのです。
コロナ禍で病院の経営が圧迫されているという報道もされています。
かかりつけのクリニックからも患者の数が減っているのです。
地域医療の考え方
地域に密着した医者と患者の関係も見直されています。
プライマリーケアと呼ばれる考え方がそれです。
すぐに大病院に行くのではなく、いつも診てもらう医者との関係を確保することが大切なのです。
そこで十分な治療ができない時、診断装置などを持った大病院へ紹介してもらうというシステムです。
ネットワークをフルに活用して、1人の人間と正対するという考え方そのものは、ごく自然なものといえるでしょう。
ポイントはそうした日常の診察場面において、何が最も大切なのかということです。
このタイプの問題は必ずどこの学校でも出題されます。
看護関係の入試では常識だということもあって、面接の際に質問されるケースも多いようです。
ではどう答えればいいのでしょうか。
それほどにたくさんの角度があるワケではありません。
正面から攻めていけばいいと考えられます。
キーワードは「やさしさ」です。
「心のコミュニケーション」といった方がいいでしょうか。
医療現場はつねに人手不足です。
病院を訪れたりするとそのことが実によくわかります。
ナースステーションには本来何人もの看護師がつめていなければなりません。
しかし任務が重層化し、突発的なコールなども入るため、すぐに対応できないこともしばしばです。
それでも医療従事者は患者と円滑なコミュニケーションを取らなくてはならないのでしょうか。
結論はその通りです。
患者は通常、医学についての専門知識を持っていません。
医療関係者に身を任せています。
何か訊こうとしても、やさしさが感じられない人に、質問をしようとは思いません。
あるいは簡単に苦しさを訴えようとはできないものです。
対等な立場
患者が全て医療従事者とコミュニケーションを持ちたがっていると決めつけるのはよくないでしょう。
自分だけの世界にひっそりと沈み、時の経過を待っている人もいるかもしれません。
ホスピスなどにいる患者の中には、そうした傾向の人もいると聞きます。
しかし大多数の患者は、1日も早い退院を望んでいます。
明確なプライドをもち、医師や看護師たちと対等の関係で信頼を結びたいと考えているはずです。
時には苦しい検査に耐えなければならないこともあります。
しかしその後で、きちんと症状について説明をうけ、今後の治療方針を定めていければ、それがベストでしょう。
その時にただパソコンをみつめたままで説明されたのでは、信頼をしろという方が無理というものです。
親身になって病状をきちんと説明してくれ、その後の方針を相互の納得のうえで決めていくということが何よりも大切でしょう。
その時に必要なのは、なんといってもコミュニケーション能力です。
患者の立場をきちんと想像できる能力がなければ、医療に携わることはできません。
もっといえば、究極は人としてのやさしさにつきるのではないでしょうか。
どれほどの知識を持っていたとしても、それが決定的なアドバンテージになるワケではありません。
人間はそれぞれの人格を持って、相手と対しているのです。
患者はたんなる病気の個体ではありません。
たくさんの歴史を背負って生きてきているのです。
そのことに対する配慮ができない人は、医療に携わるべきではないのです。
医療技術と知識が大前提
ここで最初のポイントをもう1度おさえておきましょう。
コミュニケーション能力があるというのは、おしゃべりや対応がうまいというような単純な話ではありません。
あくまでもここでの場面は医療現場です。
としたら、基本は医療技術と知識の習得に尽きます。
最前線の知に対する厳粛な態度があってこそのコミュニケーションだということを忘れてはならないのです。
小論文を書く時も、このことはきちんと論じてください。
ともすると、患者への想像力を声高に書いてしまいがちです。
しかしそれでは不十分なことはよくわかってもらえたと思います。
知識、技術がそろった上で、患者を1人の人格として対応するという基本をおさえるのです。
そのポイントをはずしてしまうと、なんのための論文かわからなくなります。
医療は最終的には心の問題につきあたります。
相互が納得したうえで、治療を進めるという行為がない限り、進展しません。
いわゆるインフォームド・コンセントが必要な所以です。
課題文に医療者の心構えという問題が出たら、必ずここに重点を置くことです。
けっして大きく外れることはありません。
自分の経験などもあったら、そこに入れてください。
ただし長くしすぎないこと。
ありふれた内容のものは、かえって全体のバランスを崩します。
よく構成を考えてみることです。
やさしさというキーワードの中身をじっくりと検証することをお勧めします。
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何が本当のやさしさなのか。
これは想像以上に難しい問いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。