ロゴスの市 乙川優三郎  徳間書店 2015年12月





主人公は同時通訳の女性と小説の翻訳家の二人です。
それに絡むのが、後に修道女になる人と大手出版社に勤める大学の同級生4人です。
さらに海外の小説を得意とする出版社の中堅社員。
それぞれの生き様を通して、言葉と真剣に対峙する主人公二人の愛の行方が描かれます。
大学は明らかにICUをイメージしています。
そこで学んだ4人は、それぞれの得意分野に生きるべく、卒業後の進路を選びます。
複雑な家庭環境にいる女性は、言葉に先鋭な感覚をもち、それが故に、同時通訳としてあっという間に有名になります。
もう一人の主人公の男性は、ゆっくりと確実に言葉を紡ぎ出すというタイプなので、翻訳家になるのです。
彼はアメリカの女性作家のものをいくつか下訳していく間に、日本語と英語の持つ圧倒的な違いを感じます。
その中で苦しみ、どうしたら作家の声を無理せず、日本語になおしていけるのか、考え続けるのです。
やがて、相互に愛情を感じるようになる中で、女性はアメリカへ修行の旅にでます。
そうこうしている間に、複雑な家庭の環境が明らかにされ、彼女は突然、母が再婚した相手の男性の連れ子である義兄と結婚してしまいます。
このあたりから話は次々と展開し、どこへ向かうのかわからなくなります。
タイトルの「ロゴスの市」とはフランクフルトで開かれる書籍の見本市のことです。
世界中の出版社がいい作品の翻訳権を手にするべく、しのぎをけずります。
この場面は、なかなかの味わいで、主人公の男性もそこで、かつて翻訳したことのあるアメリカの女性作家などと出会ったりもします。
後にこの市を主人公の二人が訪ねるための伏線にもなっているのです。
やがて男性は、その女性を諦め、別の人と結婚します。
しかしそれからしばらくして、彼女が離婚したことを知るのです。
最後にこの女性は飛行機事故で亡くなります。
向田邦子が好きだったという逸話も、同じように飛行機事故で死んだという話とオーバーラップするようになっています。
そして彼の子供をかつて孕み、そのことをかくしてアメリカへ渡り、出産した過去があることも友人から知らされます。
次々と展開していく中で、一環して語られるのは言葉の問題です。
どのように訳せば、一番作家の内奥にせまれるのか。
言葉のニュアンスは助詞や主語一つで簡単に変わってしまいます。
芝木好子やジュンパ・ラヒリなど、いろいろな作家の名も登場します。
文章が実にうまい。
久しぶりに小説を読んだ気分になりました。