芸人という生きもの





柳家小菊師匠の旦那といった方が、通りがいいかもしれないです。
あるいは立川流顧問でしょうか。
もっともこちらの肩書きは自分から早々と下ろしてしまいました。
2014年11月のことです。
談志家元が亡くなって、立川流との縁が薄くなっていったのでしょう。
去る者は日々に疎しという喩えもあります…。

立川談志との関係はいろいろな本にある通りです。
2009年に新潮選書に入った『戦後落語史』を読めば、そのあたりのことはよくわかります。
面白いと思ったのは、『江戸前の男―春風亭柳朝一代記』(新潮社、1996年)です。
小朝に取材し、細大漏らさず、この江戸っ子芸人の生き様を描きました。
この時のエピソードが、今回の本にも載せられています。

柳朝が入院した時、その膨大な入院費を全て支払ったのも、弟子の小朝でした。
30人以上も抜いて真打ちになった時、他の芸人からのいやがらせを師匠は必死になって防いでくれました。
その恩に報いようとしたのでしょう。
師弟の心あたたまるいい話です。

この本に掲載されているのは、落語家だけではありません。
いわゆる芸人と呼ばれている人々もたくさん出てきます。
東京コミックショウのショパン猪狩などは、ぼくにとって懐かしい名前です。
子供の頃からずっと生で見てきた芸人なのです。
その他、珍しいところでは緒形拳にまで筆が伸びています。
交友関係の広さが、特に印象に残りました。

談志家元との関係で、多くの噺家とも知り合い、それが人生の糧になったと彼は述懐しています。
しかし年齢とともに、落語を聞く機会も減りつつあるとか。
演芸評論家の厳しい台所事情もよくわかりました。

芸人の好きな人にはたまらない本です。
今度は柳家三亀松について書いた『浮かれ三亀松』を読もうと思います。
談志に絶賛された時は、涙が出たと彼も書いています。
出会いがやがて別れになるという厳しい現実を見てきた作家にとっては、懐かしい思い出ばかりのようです。