女のいない男たち 村上春樹 文藝春秋 2014年5月





 前作を読んだのが、ちょうど1年前のことでした。あの時はほとんど否定的な感想を書いた記憶があります。もう村上ワールドに飽きたという正直な気分を述べました。
あれから1年が過ぎ、書き手も読み手も年をとりました。村上春樹はぼくより1歳年上なのです。同じような風景をかなり見て生きてきたんだなと時々強く思うこともあります。
彼の味わいは短編にあると今でも信じています。初期の頃からずっと読み続けていますが、記憶に残るのは短編ばかりです。鋭い切れ味で、ここではないどこかへと読者を誘ってくれます。
前回の短編『東京奇譚集』からも随分と年月がたちました。腕がにぶっているとは思いません。たしかにみごとな切れ味の作品もあります。しかし総体にいわせてもらえれば、女に逃げられた男(自死、病死を含む)の生き様を描いて、さてそこから何をつかもうとしたのかは、疑問です。
一番苦労したと本人が語っている「木野」という短編には柳、猫、蛇などの日常と非日常のあわいに透けてみえる、人間の不安が表現されています。
生きていくということは多分、こういうひりひりするような感情をどこまでも引きずっていくことを意味するのだろうと感じました。面白かったです。
その他の作品は、おそらくしばらく時間がたてば、忘れてしまうに違いありません。個人的には『象の消滅』あたりで、彼の短編の命は終わっているのかもしれないと思います。
年齢を重ねるということと、手練れになるということ、さらには感性を研ぎ澄まし続けることの難しさを感じました。村上春樹がいうところのエレベーター音楽との差をもっと味わいたいです。