わたしの上海バンスキング 明緒 愛育社 2013年12月





 昨年の12月に出版された本です。
上海バンスキングという芝居を一度でも見たことのある人は、是非これを手にとってほしい。それくらい魅力に富んだ本です。前半は舞台写真と稽古場での風景を撮ったものばかりです。
串田和美が始めた自由劇場の入り口の写真が見事です。80人も入ればもう一杯だという六本木の地下劇場が彼らの世界そのものでした。
そこへ飛び込んできたのが笹野高史であり、吉田日出子だったのです。
小学校から高校まで成蹊学園で同窓だった斎藤憐との合作、「上海バンスキング」が世に出るまでにはかなりの時間がかかりました。
破天荒な芝居といえばいいのでしょうか。登場人物がみな楽器を演奏するという不思議な芝居だったのです。普通なら音楽家がやるべきところを全て、劇団員がこなしました。上海に巣くった日本のジャズメンたちの生態を実にみごとに描ききったのです。
あっという間に地下の穴蔵は人でごった返すようになりました。伝説は伝説を呼び、何度上演されたことか。
後に博品館劇場やシアターコクーンで上演するようになっても、終演後はロビーで歌をうたいました。演奏もしました。
そうしたことの全てが次の神話を生んでいったのです。
後半では串田和美の妻で写真家の明緒さんが、実にいい文を書いています。あの時代に何があったのか。それが今、どんな意味を持つのか。読んでいて懐かしくて仕方がありませんでした。
戦争によって、みなが狂気の世界に入っていく。そのほんの少し前の光景がこれほどせつなく描かれた芝居はないかもしれません。
吉田日出子の歌とあわせて、今も伝説は続いています。数年前、オリジナルキャストで上演され、大好評を得ました。再び上演されることはあるのでしょうか。
ぼく自身にとっても、実に思い出の深い舞台です。読んでいて息苦しくなりました。