色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年 村上春樹 文藝春秋 2013年4月





 久しぶりに村上春樹の小説を読みました。
そこに出てくる記号はいつものことですが、彼の得意とする世界そのものです。
学生時代から読んできた実感からすれば、少し疲れを覚えたというのが正直なところです。
リストのピアノ曲「ル・マル・デュ・ペイ」、コーヒーとオムレツとトースト、日曜の朝のプール、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲、レクサスのセダン、チノパンツ、フィンランド、ハメーンリンナのサマーハウス、青い無地のコットンのワンピース、白のテニスシューズ、自由が丘のワンベッドルームのマンション、ポルシェのカレラ4、レモン・スフレ、スカンジナビア・デザインの事務机、マックのラップトップ、紺色のワーゲンゴルフ、広尾のビストロ、コーヒーとツナサラダ。
36才になった主人公は高校時代の仲間に会い、彼らの軌跡を追います。
それはまぎれもなく、彼自身の出自を問う旅でもありました。
しかしそこに何があったのか。それが全て明らかにされているわけではありません。
一言でいえば、初期の頃の作品にあったような、ヒリヒリした感覚がありませんでした。悪くいえば、手慣れた世界を並べた印象が強く残ります。
したがって作品に強い共感を持つことが出来ませんでした。
世界はこういう風に出来ているとはもう思えない。そういう年に自分がなっているからかもしれません。
あえて言えば、最終章で新宿駅のプラットホームに立つ主人公の姿に、彼の現在が投影されているといえるでしょうか。