日本を降りる若者たち 下川裕治 講談社 2007年11月





 日本は暮らしにくい国になってしまったのでしょうか。この本を読んでいると、タイの首都バンコック、カオサンロードと呼ばれる安宿街に寝泊まりする彼らの生態がよく見えてきます。
日本で2ヶ月くらい働き、残りの10ヶ月をタイで遊んで暮らす。そんな彼らの様子です。
なぜそうなったのか。理由はさまざまでしょう。
最初はちょっとした旅のつもりでふらっと立ち寄ったこの都市が、思いの外居心地のよい場所であったということかもしれません。
タイ人はよく「マイペンライ」と言う言葉を口にします。なんとかなるさというところでしょうか。
一日中ぼんやりしていても、なんとか生きていけるというこの国の不思議な自由さにひかれて、そのまま居着いてしまう人も多いようです。もちろん日本の企業に勤めていた人もいます。しかしどこか息苦しい生き方を強要される日々が続き、その反動のようにして、アジアの国に来てしまうのです。
当初はビザの申請もほとんどいらなかったようですが、昨今はかなり厳しくなっています。それでも隣の国に一度出れば、また入国が可能です。隣の国といっても、彼らの感覚ではまさに隣の町なのです。
その不思議なほどの自由さが、アジアの魅力なのでしょう。
筆者は何度も「外こもり」という表現を使っています。日本にこもるのではなく、むしろより自由な、それも物価の安い外国にこもる。面白い言葉です。毎日35度近くもある場所に住んでいると、どこにも出たくなくなるのかもしれません。しかしそれ以上に心を病んできた人たちは、他者との関わりをできるだけ拒否しているといった方が正確なのでしょう。
どこかの屋台でふらっと出会い、話をしてまた別れる。自分の生活のテリトリーを犯す心配がない。
なかには自殺願望の強い人もいるそうです。しかし日本にいた時は明日こそ死のうと思っていた人も、この街にくると、癒えて楽になってしまうといいます。
とはいえ、いいことばかりではありません。自分がまさにどこへ帰ったらいいのかというアイデンティティー喪失の危機に見舞われる人も多いそうです。年齢が進むにつれ、管理社会の中に戻ることが不可能になります。現地で結婚する人もいます。
あるいはタイ語をきちんと勉強して、現地法人に雇われるという道を選ぶ人もいます。カオサンロードからさらにグレードの高いラングナム通りなどへ出ていくのです。
日本は今、どういう国になろうとしているのでしょうか。
外ごもりをして、息苦しさをなんとか耐えしのいでいる人たちの様子を読みすすむうち、なにが人間の幸福なのか、ますますわからなくなってしまいました。
この本にはシルバー世代のロングステイについても書かれています。
ステイ以前に描いていた構図と、現実とのギャップもなかなかに興味深いものでした。