五代目小さん芸語録 柳家小里ん 中央公論新社 2012年5月





五代目小さんといえば、誰でもが知っている顔の丸い噺家です。落語家ではじめて人間国宝になったというので有名になりました。
今日の柳家の隆盛を作り出したのはまさにこの噺家の存在があったからです。剣道を愛し、たくさんの弟子を育てました。その中に次世代を継ぐ噺家が登場したというわけです。
現在の落語協会会長、柳家小三治も弟子の一人です。
この本は、内弟子修業をした柳家小里んが師匠の芸について語ったものの総まとめです。
一つ一つの噺の要諦をそれこそ、師匠に教わった通り話しています。その数54。どれもが小さんの名人芸をあますところなく伝えている噺ばかりです。
本当なら、こういう話は師匠の側にいる人だけしか聞くことができません。プロの目から見て、どこがポイントなのかを簡潔に話しています。まるで目の前に小さんがいて、直に教えてくれているような気にさえなります。
ある意味でこれは実際に高座に上がる人間にとってはバイブル的な意味を持つ本なのではないでしょうか。ただ読んでも十分に面白いのですが、実際に演ずる人間にとっては実にありがたい本です。今までにこういう類いの出版物はほとんどありませんでした。
この中にはぼくも高座で話すネタがいくつも入っています。その噺の鍵をじっくりと何度でも読めるというところが、実にありがたいのです。
師匠の息遣いが小里んさんの口調の中から聞こえてきます。小三治は後書きで、こんなに師匠から噺の秘密を聞けたなんて羨ましいだけでなく、嫉妬すら覚えると書いています。実感ではないでしょうか。
この本は腐りません。何度でも読み返せる実にありがたい本なのです。