小説圓朝 正岡容 河出書房 2005年7月





 この作品は1943年に出版されたものです。それを河出書房が復刻して文庫に入れてくれました。偶然のように手にした本です。ぼくは芸人伝が嫌いではありません。というか、結城昌治『志ん生一代』のような小説もふくめて、とても好きです。
なぜか非常に人間くさく、長所も短所もそこに人間そのものがいるような気がするからでしょう。
圓朝について、多くを語る必要はないと思います。江戸の最後から明治にかけてすぐれた噺を残しました。もちろん彼自身、噺家として高座に出たことはいうまでもありません。
幼い頃はいろいろな職業を転々としました。それが後に生きたというのもこの人の徳でしょう。画家の見習いまでしています。『牡丹灯籠』に出てくる様々な色の組み合わせや、『怪談乳房榎』の主人公、菱川重信の居住まいにも、それはあらわれています。
また『鰍沢』などの三題噺や『文七元結』などでも有名です。
彼が二代目三遊亭圓生の弟子となり、その後師から厳しく叱責され、また仲違いをしていくところなどは実に人間というものの複雑さを感じさせるのに十分でした。自分が話そうとしている噺を目の前でされてしまう悔しさ。それをばねになんとか自分の芸風を確立するまでの苦悩。おまえの芸は暗い、もっと明るくしろといわれ、青でもなく、赤でもない、紫の芸を身につけようと必死に稽古をするあたりは鬼気迫るものがあります。
最後には師匠と和解し、大道具や音曲などを使わない、いわゆる素噺だけで進めるという形式を確立するまでが描かれています。
小島政二郎にも『圓朝』という作品があります。あわせてこれから読んでいくつもりでいます。芸というものの持つ深みとそれを手に入れることの苦しさが実に見事に描かれています。
やはり噺家の祖といわれるだけの人に違いありません。厳しい修行の果てになった人というのが今の実感です。