阿呆者 車谷長吉 新書館 2009年3月





 車谷長吉は不思議な作家です。自分というものをあくまでも客観的に突き放す目を持ちながら、しかしそのことに諦念を抱いてもいません。つまり死ぬその日まで、だらだらと生きていく自分というものの存在を認めています。だから読んでいて疲れません。
なるほど、この人のいう通りだと感心させられます。私小説家というものが今も生きられるとしたら、この人のような形以外にはないのかもしれません。それくらい腑抜けの自分を知っています。というより知り尽くしています。こんな私にもそれでも生きることだけは許してくださいと日々、仏に祈っているのかもしれません。
太宰治のような自己愛がないわけではないのです。しかしそれ以上に自分の存在がつらくて、いつ死んでもいい人間として、そこに放り出されているという感覚の方が強いのではないでしょうか。
朝日新聞の土曜版に連載されているこの作家の人生相談くらい面白い読み物はありません。ある意味で実にすっきりしています。もうここまできたら何も隠すことはないなと思わされます。
この本はエッセイ集です。詩人高橋順子と知り合った時の話などを読んでいると、これでも生きていけるのだと、妙な自信が身につきます。ひどい、ずるい、こざかしい人間として、悪口や嫉妬の塊としての人間として、それでもなお生きられるということの証として、読んでみてはどうでしょうか。
阿呆者と自身を呼ぶその目は、いつも澄んで透徹しています。だからこそ、怖ろしい人でもあります。