反逆の時を生きて 臼井敏夫 朝日新聞出版 2010年6月





今から40数年前、日本の学生運動はその高揚期を迎えました。医学部の研修問題に端を発した東大、使途不明金に揺れた日大を中心に、日本中の大学にバリケードが築かれ、やがて機動隊が校門の脇に常駐するといった不思議な光景が展開されていったのです。
その当時を生きた学生達はその後、どうなったのでしょうか。幹部として活躍した人達に会って、その時代と今を語ってもらうというのが、この本のコンセプトです。
昨年朝日新聞夕刊に連載された「ニッポン人脈記」を元にしてまとめられました。
なかにはぼくのよく知っている人も出てきます。驚きました。少しだけ遅れた世代に属しているぼくよりも、みな数年先に大学へ入った人達です。年齢でいえば、60才をみな超えています。
この世代の人にとって高野悦子といえば、知らない人はいません。『二十歳の原点』は当時大ベストセラーになりました。その母へのインタビューからこの本は始まります。関川夏央、石川理夫、米田隆介、さらに教官として折原浩、最首悟。みなその後の人生が大きく変わりました。
自分に嘘をつきたくないという一心から始まった運動でしたが、その後の展開は個人の思惑をはるかに超え、権力というものの非情な一面をみせました。そのことにより、もう二度と力のあるもののそばには寄らないと決めた人も多かったのです。
医師として現在も活躍している人の中には、この頃全てを見てしまったと実感した人も多かったようです。地域医療に活路を見いだし、諏訪中央病院を現在の形に仕上げた鎌田實などもその一人です。
日大全共闘議長として活躍した秋田明大はその後広島の自宅へ戻り、自動車整備工場を営んでいます。
20億円の使途不明金問題で当時の古田総長と大衆団交をした時の様子は今でも一つの映像となって残っています。まさに劇的な時代でした。
安田講堂を占拠した東大全共闘代表の山本義隆は、その後いっさいマスコミを遠ざけ、予備校教師になりました。この本でも一切の取材を拒否しています。素粒子研究の成果は『磁力と重力の発見』(みすず書房 03年)となってその後結実し、大佛次郎賞などを受賞しています。
この本の面白いところはいわゆる新左翼系だけでなく、赤軍派、さらには民青系、右翼秩序派の人々にまで取材しているところです。宮崎学、寺島実郎など実に興味深い話をしています。
かなり多くの人にインタビューした結果、やや散漫な印象にはなっていますが、あの時代がかれらにとってどういう意味をもっていたのかということが再検証されています。
時代はベトナム戦争を飲み込み、さらには高度経済成長を終焉させました。その後にはかつて想像もしえなかった全く別の地平が広がっています。
いろいろな意味で懐かしさを覚えました。しかしあの時代を生きてきた人達が、明らかにそれまでとは違った価値観の人生を歩いていることは、間違いのないことだと思われます。
このことをどのように考えればいいのでしょうか。ただの懐旧譚だけで終わらせてしまうのはあまりにも無残です。