東京の俳優 柄本明 集英社 2008年6月





 芝居好きは血なのでしょうか。子供の頃からずっと見ていました。だかというわけではないですが、どうしても演劇関係の本には目がいってしまいます。この本も東京乾電池で活躍している柄本明の自伝です。
というより、今までの軌跡を丹念に追いかけた本といった本が正確かもしれません。工業高校を出てサラリーマンになったものの、ここが自分のいる場所ではないという感覚をずっと持ち続けていました。
そのことが自然と今の仕事につながっていったのでしょう。
まさに勤め人の恰好のまま、鈴木忠志演出の早稲田小劇場を見た時のショックが実に生々しく書いてあります。時代はまさに不条理演劇一色でした。
それまで芝居などとは縁のない暮らしをしていた彼が、これ以降のめりこむようにして、その世界に没入していくのです。
といっても最初は串田和美のひきいる劇団に大道具からはいっていったにすぎません。
やがてNHKのスタジオの裏方などでアルバイトをしながら、一生生活していくのもいいなと思うようになります。楽しい日々でした。
舞台に立ったのは吉田日出子にふとしたことで誘われたことがきっかけです。
それからはただ多くの人と関わり合い、今まで聞いたこともない劇作家の作品と出会います。ベケット、イヨネスコ、チェーホフ、別役実。その他に自分たちでわけのわからない芝居を上演したりもしていきます。
東京乾電池として人気も出始めました。しかしファンの嬌声にうんざりしていた彼は、それまでと全く違う芝居を試みました。劇作家岩松了との幸運な出会いもありました。彼が岸田戯曲賞をとった『布団と達磨』あたりから、この劇団は大きな変質を遂げます。
最近では新藤兼人監督作品や、その他の多くの作品に出演し、独自の風貌とあいまって、異色俳優としての地歩をかためています。
とにかく客は敵だと彼は言います。いつも彼らに迎合しないだけの器量を持ち続ける努力をしないと、同じ場所をぐるぐる回るだけの役者になってしまうとも述懐しています。
最後まで一気に読んでしまいました。
板の上には確かに魔物が棲んでいます。