悩む力 姜尚中 集英社 2008年5月





 随分売れている本のようです。数十万部の単位だそうですから、全く驚かされます。内容は実にストレートそのものです。人間は悩む生き物だというのです。人間から悩む力をとってしまったら、なんにも残らないと筆者は主張しています。
キーパースンは漱石とマックス・ウェーバーです。彼はこの二人の軌跡を追いながら、人間はいかに生きていけばいいのかということを考えようとしています。
難しい話は少しもありません。
人一倍無口で寡黙な青年時代が何に由来していたのかということをまず筆者は書きます。それはあふれるような自我の行き先に悩んでいた故だというのです。
現代ならばさしずめ「うつ」になってもおかしくないくらい、自分のアイデンティテイの確立に苦悩したそうです。その彼がやがてこの二人のキーパースンの著作に触れていく中で、徹底的に考え続ける以外に、なんの方法もないということに気づきます。
宗教もどこか嘘くさく、さりとてスピリチュアルのようなものにも行き着けません。
彼は悶々とした日々を過ごしながら、人間とはなにかということを考え続けます。
この本の中で最も面白かったのは漱石が金銭というものに大変苦労し、最後まで拘ったということを詳しく述べているところです。『道草』を持ち出すまでもなく、『こころ』の中には叔父に遺産をだまし取られてから、人間観をかえた先生の横顔が出てきています。
現代では金銭を無視して生きることはできないという現実を、きわめてわかりやすく論じてもいます。
さらには愛情や恋愛、労働というものの本質がどこにあるのかということも興味あるテーマでした。
急いで書いた感は否めませんが、筆者の本音があちこちにちりばめられていて、読んでいても愉快でした。
彼は近年車の運転にのめりこんでいるそうです。本書にはハーレーに乗りたいと書いていますが、自動車の持つ不思議な一体感に今はとらわれているとのことです。
地面と機械の間に挟まれて地上を疾駆する構図がたまらないのかもしれません。マスコミでの大活躍を見るにつけ、ふっきれたものだけがもつ魂の強靱さを実感しました。