幸福論 吉本隆明 青春出版社 2001年3月





 随分以前に出版された本です。この本を読んだのは、二度目です。以前より、さらに胸に落ちる気がしました。
人間はどうしたら幸福になれるのかというのは永遠のテーマかもしれません。しかしその方法を誰も知らないのです。
吉本隆明はその難しい問題に、真正面から挑んでいます。それも実にあっさりと。読んでいると拍子抜けするようなことしか書いてありません。勉強なんかしてもたいしたことはないとか、死ぬことなんかいくら考えても、無駄であるというようなことです。
お嬢さんの教育に関しても、ほとんど任せきりだったとか。どちらも勝手に学校を選び、落ちたら落ちたで、その先も任せたそうです。
一方で一番大切なのは叡智だと言っています。人生で役立つ知を求めることが生きていく最上の道だとも呟いています。いくら学問をやってもなんの得るところもなく、それよりも幼い頃に様々な人から話を聞くということの大切さを知るべきだと論じています。
全体にあまりに力の抜けた本なので、どこまで本気で書いているのだろうといぶかってしまう面もあります。
しかしぼくには案外人生の真実がここにはあるような気がするのです。親鸞は教行信証という本の中で、「幸福の国を求めていって、もし疑いの網に覆われたなら、また元に戻ってきて、再び永い永い歳月の遙かな旅にでかけよう」と述べています。人間はどこまでいっても自然の一部であり、そこから抜け出すことはできません。
筆者の最近の本とあわせて読むと、年齢を重ねるということはつまりこういうことなのかということが、少しづつ見えてきます。
生死は不定であるというこの基本原則だけを知っていれば、あとは自らの心のままに生きていくだけなのではないでしょうか。
その日、その時間というふうに細切れにして、その時幸せかどうかを考えればいいのであって、先のことを思いわずらっても仕方がないことなのでしょう。無駄な学問より、その日の幸せを追い求めるというところに、彼の真骨頂を見た気がしました。