ガール 奥田英朗 講談社 2006年1月





 この作者は実にいいセンスをしています。特に女性の内側を描くのが上手です。『マドンナ』という作品が男性の側からのものだとしたら、これはまぎれもなく、女性の心を女性の目で見たらどうなるのかという話です。
30代になった総合職のキャリアガールたちが、かつてのように若さだけで社内を闊歩できなくなったところからいずれも話は始まります。
年下の男性の研修担当になって心弾ませるキャリアや、同じ年の男性より先に課長になってしまった女性の苦闘。特に大手広告代理店や、自動車会社など、みなそこそこの給料をくれる勝ち組に属しているだけに、彼らに対する嫉妬もまた人一倍のものがあります。
同級会にでかければ、子育て組とそうでない独身組とにすぐに分かれてしまいます。
あるいはマンションを買おうと決心した途端、何かを捨てなくてはならないという現実にも突き当たります。
ワーキングマザーという短編では、久しぶりに営業部に戻り仕事の楽しさを感じてはみたものの、小学生になったばかりの息子が熱を出してしまいホームヘルパーの助けを求めなくてはならない、離婚女性が主人公です。
かつて会社は男性たちのものでした。その中で人脈をつくり、地位を分け合っていたのです。しかし女性が社会進出を果たした今、その構図は大きく変化しています。
しかし以前と同じように、愛嬌だけで生き残ろうとする一群の女性もあり、さらにはファッションも男性たちには大いなる関心の的でもあるのです。
かけ声だけの男女平等ではなく、まさに現代を生きているサラリーマン達の日常がこれでもかと描かれます。
思わず、こういうこともある、ああいうこともあるとつい納得させられてしまうだけのリアリティがあります。
女同士はどこかで楽しめるし、わかりあえるというのが、基本のコンセプトです。読後感はけっして悪くありません。
しかし女性が総合職として生きていくことの厳しさは、想像以上のものがあると感じました。
たくさんの選択肢がある時代だからこそ、自分の価値観をよほど大切にしないと、結果が惨めになるなというのが、率直な感想です。何度も頷きながら、笑ってしまいました。
奥田英朗は文章が本当に巧みです。感心しました。