ルポ貧困大国アメリカ 堤未果 岩波書店 2008年4月





今年の1月に出たばかりの本ですが、もうかなりの増刷を重ねています。それだけ出色の内容と言えるのではないでしょうか。かなり独自の取材をしているのがわかります。
アメリカという国の現在を知るには恰好の情報源だろうと思います。この本を読んでいて一番怖かったのは、これが近い将来の日本の姿だということです。まさかイラクでの戦争はないでしょうが、これに似た状況が必ず出現するという確信さえ持ってしまいました。
自己責任とか、小さな政府といったかけ声の裏側で、ここまで民営化が進むとどうなるのかという、壮大な例示かもしれません。
サブプライムローンで破綻した家族の話から始まり、さらには肥満が低所得者層に押し寄せている現状を分析しています。
いわゆるジャンクフードに近いものを安い料金で提供し、そのしわ寄せとして、貧困層に肥満があふれています。
さらには医療保険が高額化するに及び、医者の診断をあおげない人々が急増しています。無保険者は現在4700万人のにのぼると言われています。
また手術料や、医療費が高騰したことのあおりを受け、中間層から貧困層へとなだれをうって、階層が変化しています。かつては公的医療制度があり、貧しくてもそれなりの治療はしてもらえました。しかし今では保険料の支払えない人々は医者にかかれません。
巨大病院チェーンはリストラによって看護師を大幅に減らしました。医者も医療過誤による訴訟におびえ、給料の半分をそのための訴訟保険につぎこむ人もいるそうです。特に産婦人科などは堕胎の手術をすることで殺されてしまう可能性もあり、ほとんどなり手がないとか。廃業してしまう医師も多いそうです。
盲腸の手術にかかる費用は平均1日の入院で243万円もかかるとあります。ちなみに日本では国民皆保険制度があるおかげで、平均入院日数5日間で30万円を超えないそうです。
つまりアメリカでは保険に入っていないと、それだけで盲腸の手術すらうけられず、あるいは受けられたとしても支払いが滞るということになるのです。
さらに高校から大学へ行くためには多くの学生が学資ローンに頼ることになりますが、その総額は平均1万9千ドルになるとか。借金を背負って卒業する学生達の4割は返済不能だといいます。また高校段階で学資が払えずに、カード地獄に陥る学生を狙って、軍が積極的にリクルートを行っていくのです。
学資を肩代わりするというので喜んで入隊のサインをすると、実は先払いでかなりの額を入金しないと、ローンを貸してくれないこともわかるのです。彼らはあっという間にイラクの最前線に送られていきます。徴兵制をとっていない現在のアメリカにとって、このような貧しい階層の学生が恰好のターゲットでもあるのです。
さらには民間の傭兵や、軍事物資を運ぶトラック運転手など、全て最貧困層からかき集め、戦場に送り出すのです。
民間のこうした人々は軍の支配下におかれないため、戦死者の数には入らないそうです。軍のリクルーター達は、貧しい学生のリストを持ち、毎日人集めに余念がありません。もし集められなければ、彼らが前線に送られるのです。
精神を病んで国に戻ろうとしても、あるいは劣化ウラン弾による放射能汚染した水を飲んで白血病になっても、軍の支配下にない限り、何の保証もありません。
誰のための戦争であるのかなど、気にしていたら、明日の命がなくなるのです。ただ命令通りに動くロボットとしての人間の横顔が、これでもかと描かれています。
これが民営化の行き着くところなのでしょうか。報道の自由ということとあわせて、大変衝撃的な内容の本でした。著者の真実を伝えたいとする熱意に大いに共感したことを述べておきます。
新書の枠組みを超えた内容の濃いルポです。一読を是非お勧めします。