アメリカよ、美しく年をとれ 猿谷要 岩波書店 2006年8月





アメリカはあの9.11事件以来、大きく変貌を遂げました。それまで見せていた若い魅力ある国家の側面から、一気に帝国と呼んでも差し支えのない軍事大国の横顔を強調しはじめたのです。クリントンから、レーガン、ブッシュの時代に入り、軍事費は増強される一方です。
二十世紀を通じて国際連合まで主導的な役割を果たしてきたにもかかわらず、今や、京都議定書からも離脱、二酸化炭素の濃度がどうなろうと、自国の経済が一番とばかりに理性を失った暴走を続けています。
著者の猿谷さんは若い時からアメリカという国に興味を持っていました。大学生当時、ほとんどアメリカに関する講義が行われない中、独力でその歴史を開拓してきたのです。
若いアメリカには正義を貫こうとする魅力がありました。極東の小さな国からやってきた研究者にも奨学金を交付し、さらにアメリカをじっくり観察して欲しいと訴えるだけの余裕があったのです。
彼らにとってもっとも厭な黒人の歴史を学ぼうとしても、歴史学部での客員研究員の地位を保証してくれました。
いい意味で健康なアメリカがそこにはあったのです。著者はこの本の中で、奥様と一緒にアメリカ中を旅したエピソードを書いています。多くの人と知り合い、今でもお付き合いを続けているそうです。
その中には暗殺されたキング牧師の父親もいたとか。
そうしたいい時代のアメリカを知っているだけに、軍事力だけを増強し、格差がますます開いていく現在のアメリカという国が、心配でたまらないのです。世界に手を広げすぎて、この国家はもう抜き差しならないところへ来ています。
美しい初老の時を持てない国は、やがて衰退していくだけです。そうした現実の中で、随想的にまとめられた本書は、たくさんの示唆に富んでいます。
アメリカは今や多くの移民を受け入れ、貧困国家の側面を見せつつあります。特にサブプライムローンの破綻は、想像以上に深刻です。財政の破綻はアメリカの金融市場だけでなく、世界を揺るがしています。
貧困大国アメリカについては、現在読んでいる本がありますので、またどこかでコメントしたいと思います。
猿谷さんのタイトルの中に、アメリカへの祈りにも似たものがこもっているように感じるのは、ぼくだけでしょうか。