梅原猛の授業 仏になろう 梅原猛 朝日新聞社 2006年3月





 以前、彼の講演集、仏教と道徳については、どこかで書いたことがあります。いずれも京都の中学生に向けて語りかけた内容をそのまま、本にしたものでした。今回のはカルチャーセンターでの講演をそのまままとめたものです。
それだけにやや大人向けの内容になっています。
主題は十善戒、六波羅蜜、四弘誓願です。その中で一番、感心したのは六波羅蜜の章でした。これは戒律ではありません。仏になるために仏教では六つの徳を重視しています。
一昨年、京都に行った時六波羅蜜寺を訪れました。有名な空也上人の立像がある清水寺から坂を下ってきたところにあるお寺です。
その六波羅蜜の第一番は布施です。ものを与えることです。利他の考え方に根ざした行いです。
筆者は与えるということの意味を広く捉え、もののみならず、知識も知恵もあらゆるものを与えることを布施と考えています。
あるいは相手の悩みを聞いてあげることも布施です。こうした考え方を法施といいます。不安をなくしてあげることです。
ただ聞いてあげることでも、十分にその意義を持ちます。布施は親の道徳につながります。永遠の母性につながるのかもしれません。
この他に忍辱(にんにく)という考え方があります。辱めに耐えるということです。托鉢もそうした行の一つです。そして精進。
こういう考え方が、彼の思想のままにちりばめられています。その中の一つでも自分の胸にきちんとおさまれば、この本を読んた意味は十分にあると思われます。
最終章は彼が一番今、気に入っている円空仏の話です。写真もたくさん入っていて、どうしてこれがアカデミズムの研究対象にならないのかと憤っています。
運慶、快慶にはたくさんの研究家がいて、なぜ円空にはいないのかというのもこの国の不思議な側面かもしれません。
いずれにせよ、読んでいて、どこか心安らぐ本でした。人には生まれつき仏性があると言われていますが、唯一神ではない、仏教の魅力をあらためて感じました。先日読んだダライ・ラマの本とあわせて、さらに仏教に関心を持つことができました。
心の平安をもたらすものは、けっしてものの豊かさだけではありません。そのことを最近しみじみと感じます。