新宿末廣亭十夜 小沢昭一 講談社 2006年7月





筆者、小沢昭一は子供の頃から寄席に興味を持ち、大学の頃は末廣会という評論家の私的懇談会に入って、通いつめたそうです。多くの噺家にかわいがられ、文楽、志ん生を間近にみられたということは、本当に幸せなことだったと述懐もしています。
今も柳家小三治や入船亭扇橋などとともに川柳の会を持ち、多くの芸人との交流も続いているとの由。
そこでふっと今回の企画が浮かびました。それは十夜続けて末廣の高座にあがってみないかというものでした。言い出したのは柳家小三治です。ギャラも通常噺家達がもらうワリと呼ばれる入場者数を芸人の数で割るというごく通常のやり方でです。
小沢昭一はそのことを大変喜びました。特別なゲストというわけでなく、噺家と全く同じシステムで待遇してくれたからです。
この本はその十夜の様子をそのまま再現したものです。文楽や志ん生、さらには多くの噺家の横顔も出てきます。
またそれ以外の色物とよばれた芸人達の昔話もあります。あるいは浪曲をうなり、ハーモニカを吹くという八面六臂の活躍ぶりです。この十日間、末廣亭は毎日札止めが続いたとのこと。それだけ彼のファンがいるということなのでしょう。
小さんは生前、彼のラジオ番組「小沢昭一の小沢昭一的こころ」をタクシーの中で聞きながら、これが現代の落語だなとしみじみ呟いたとか。それだけの話芸の間をもった人だということができるのではないでしょうか。
小三治の後書きもいいものです。彼に対する率直な憧憬に満ちています。芸というものを追究していくことのつらさもこの文章からは読み取れます。気楽に読めますが、しかしなかなかに深みのある本だと思いました。