続 明暗 水村美苗 新潮社 1997年12月





明暗の続編を読みました。一言でいえば、面白かったです。ストーリーの展開が漱石のものに比べると、明らかに早かったです。それと津田という人間の持ついやな面が、女性側からかなり強烈にあぶり出された印象を持ちました。
多分漱石なら、こういう風には書かなかっただろうと思います。しかしあえて、困難に立ち向かい、厄介な作業をしようとした人間がいたということの方に、むしろ興味をひかれました。
だれが書いてもおそらく文句は出ただろうと考えられます。漱石がよく言っていたという、人間を押すのだ、文士を押すのではないという考え方は、著者自身の姿勢の中によく入りこんでいます。
とにかく文士のために書くのではなく、人間というものが、より自然な形で前に進めるように描いていくということが大切だったのでしょう。その結果として、最後の形になったのだろうと思います。
明暗という作品は未完のままですが、どういうものになったとしてもやはりこれで大団円ということではないだろうと思います。
当然、志賀直哉の『暗夜行路』とは違う結末になってしかるべきなのではないでしょうか。
その意味で、これからお延と津田がどう生きていくのかということも興味のあるところです。
人間は畢竟夫婦といえども、そう簡単に互いの心理を理解できるものではないということも、また十分に理解できました。
明暗は漱石の作品の中ではそれほど支持されてはいませんが、どこにでもある夫婦のどこにでもある話として読む時、リアリティに満ちた物語です。続編を続けて読めたことは、今回の収穫でした。
よくこういう困難な試みを企てたものだというのが、率直な感想です。女性ならではの視点がいくつもちりばめられていて、面白かったです。
できうるなら、漱石の明暗の最終章まで読みたかったというのが本音です。この作品とどれほど違うのか、それを調べることができたら、楽しみもまた倍加したのではないでしょうか。
読書には無限の喜びがあるとしみじみ今回も感じました。