絶望の授業 柄本明 中央出版 2003年10月





 面白いタイトルだと思い、手にとりました。絶望をどう授業の中に取り入れるかなどと考えたことがなかったからです。
この本はNHKで放送されている「ようこそ先輩」の中で、俳優、柄本明が行った授業をそのまま収録したものです。小学生たちにとって、この役者は不思議な存在にうつったかもしれません。
自分が技術的にうまくなってしまうことを、たえず畏れているからです。意味をもたせずに芝居をつくることができなくなってしまった彼にとって、全く演劇と接点を持たなかった子供達に芝居を作ってもらうことを願った試みの結果ともいえそうです。
最初は「ロミオとジュリエット」の台詞とかベケットの「ゴドーを待ちながら」の台詞を語らせつつ、その時の生徒の表情やしぐさの中にある意味について悟らせます。
そして次にインタビューを要求するのです。タイトルはあなたにとって絶望とは何かということです。どんな時に絶望したのかを、話してくださいとお願いをしてきなさいというのです。
子供達は交番や駅、さらには公園へと足を伸ばします。さらには親へのインタビューを試みた後、自分たちで短い芝居を作るのです。
その結果がまた傑作でした。何が絶望に値するのかは、人それぞれです。しかしただ悲しいから絶望するというわけではないというところに、こどもたちが気づき、そこからさまざまな工夫がありました。
後半の記録はなかなかに愉快なものです。
しかし一番傑作なのは、それに反応する柄本明自身です。
現在、彼がNHKの大河番組で演じている秀吉は、かつてみたこともない気味の悪さをかかえています。狂気が最大に発揮されているといってもいいかもしれません。
貧しさの中で意味もなく生きてきたという俳優の横顔を、この本は一番よく表現しています。他者を演じるという作業は、罪深いことであると認識し続けている人の横顔です。