司馬遼太郎と藤沢周平 佐高信 光文社 1999年6月





司馬遼太郎の人気は少しも衰える気配がありません。いったいどれほどの冊数が発行されているのかもわかりません。戦後、日本の高度経済成長を支えてきた人たちが、彼の作品のいい読者でした。
歴史をつねに屋上から俯瞰するその姿勢は、時に小気味よく、サラリーマンにとっても自分が歴史を作り出している感覚を味わえたのです。特に明治維新を主題とする多くの作品群は、ぼくの愛読書でもありました。
ほとんどの作品をむさぼるように、読んだ記憶があります。もちろん、中国の騎馬民族などを描いた作品も同様です。
その彼と対比できる軸にもう一人作家を置くとすれば、それは誰になるのでしょうか。著者はそれを藤沢周平であると結論づけています。山本周五郎でもなく、池波正太郎でもないのです。
端的にいえば、司馬は商人であり、藤沢は農民であるといいます。上からの視点と市井の視点。この二つに分ければほぼ、間違いはないのではないでしょうか。
ぼく自身、ある時から司馬遼太郎の作品を全く読まなくなりました。やや書き割りめいた小説の登場人物から心が離れていったのです。人間はもっと地べたに這いつくばって生きているものなのではないかと考え始めたのはいつ頃からでしょうか。
それ以降、藤沢の作品が心をとらえるようになりました。
冬の日本海の暗さと寡黙に働く農民の姿に共感を覚えるようになったのです。
酒田と鶴岡の違いはあれ、同じ地域に生まれ育った筆者の、藤沢に対する思いは熱いものがあります。天皇制についての考え方の差異、人間観についても、かなり詳しく書き込んであります。
また最終章にある宮部みゆきとの対談は実に楽しいものでした。狼が好きだったという藤沢の生き様は、今の複雑な時代を生き抜く上での指針になることは間違いありません。