古道具 中野商店 川上弘美 新潮社 2005年6月





この作家の小説は『センセイの鞄』以来です。処女作『蛇を踏む』の頃からみたら、格段に文が軽みを帯びています。それは『センセイの鞄』にもみられたものですが、今回の作品の方が、質としてはいいと思います。
古道具屋と呼べる程ではない、中野商店には様々な人が集います。その人間模様がちょうどタペストリーのように織り込まれているといえば、一番ふさわしいのではないでしょうか。文体も行きつ戻りつしながら、次第に彼らの内側に入っていくという形をとっています。
2000年3月から2005年1月にかけて、連作短編の形で『新潮』に発表されたものをまとめたものです。
タケちゃんとひとみの淡い恋愛と中野さん、その姉などを中心にストーリーが繰り広げられていきます。
いかにもこんなことはあるなあと思わせる細かな描写と、かなり大胆な刈り込みが同時になされていて、プロの仕業を実感しました。ここまで文章をまとめるのは容易なことではありません。以前にまして、文章にしっとりとした落ち着きが出てきた気がします。どこかで物語を読まされているという意識がありながら、それでいて、これからどうなっていくのだろうと不思議な興味がわきおこります。
古道具というデジタル時代とは正反対の場所に視点をおいたのが成功の一端を担っています。
時々に起こる男と女の愛憎も刃傷事件も、その全てが現代そのものであり、不条理な人間の生き様だと感じました。
小説を読むことの楽しさを久しぶりに感じました。成功した作品だと思います。こういうものを書くには、並々でない現実感覚や、パースペクティブが必要となります。著者はそれをうまくオブラートに包みながら、読者の前に提出したといえるのではないでしょうか。
最後まで読んでいて楽しかったです。