不安の力 五木寛之 集英社 2003年5月





このところ連続して書かれているシリーズの中の一冊です。著者になじみのある人はすぐにピンとくるはずです。親鸞、蓮如を中心とした本願寺の考え方を底流にして、今を生きることがいかに至難かということを述べた本です。
人は生きているだけで不安だと筆者は言います。特に現代は環境問題をはじめとして、病気、神経衰弱、老衰、痴呆化と問題が山積しています。あるいは時代に取り残され働く場所すらみつからないのではないかという不安すら抱えて人は生きているのです。
毎年3万人を超える自殺者の背後には約10倍の自殺願望者予備軍がいるともいわれています。
実際、身内の自殺で取り残された人の心の闇は、そう簡単に癒えるものではありません。あの時、どうして一言やさしい言葉をかけてあげられなかったのだろうか、と人知れず悩んでしまったりもするのです。
そうした人々全てに対して、五木はそれこそが人間なのだと説きます。不安を抱えていきていることが、すなわち自然な姿であるというのです。無理をして、いつも元気でいるフリをする必要はなく、疲れた時は堂々とそのことを告げ、休むべきだというのです。
生老病死と呼ばれる人の苦悩ですが、生きるというそのことすら、並大抵のことではありません。本当の自分はいったいどこにあるのかと悩み続けながら、人は老いて死んでいくのです。若さが失われていくのはあたりまえなのです。
それを無理に若作りにする必要はないというのも彼の考え方です。若さには魅力がありますが、しかし老いていく人々の持つ年輪の厚みというものも、またかけがえのないものです。頼るものをもてない時代に、どう生きていけばいいのか。
そのことを「不安」というキーワードを前面に出してまとめたこの本は、胸の底にしみこんでいくだけの強さを持ち得た本だと思います。