落語名人会 夢の勢揃い 京須偕充 文藝春秋 2005年10月





 筆者はレコードディレクターです。というか落語CDの製作についての第一人者です。子供の頃から本当に好きだったようで、文楽の住んでいた黒門町などを通り過ぎただけで、心踊らせたといいます。
しかしその彼も最初から録音が目当てでディレクターになった訳ではありませんでした。クラシック音楽を手がけていた時期もあったのです。
ところが志ん生、文楽、圓生、小さんなどという落語家が次々と輩出し、名人芸がすぐにそばでみられる時代がやってきました。ホール落語も全盛になりました。その時彼の中にふとひらめいたのは、とにかく今までにない落語の全集を作るというものでした。その相手に選ばれたのが三遊亭圓生だったのです。
この録音は実に時間のかかるものでした。圓生の住むマンションを初めて訪ねる場面を読んでいると、目の前に本当に噺家が座っているかのように描かれています。
この当時、圓生ははじめて天皇の前でその芸を披露し、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。その彼が客のいないスタジオで、何時間も録音に費やす姿勢には頭が下がります。
この時の録音は今でもいい状態で聴くことができます。圓生百席の完成でした。
その後、志ん朝が三百人劇場で行った高座なども手がけました。最近では小三治との付き合いからできたCDもあります。素の芸人の様子が実に鮮やかに描かれていて、読んでいて楽しくなってきます。この時録音していなかったら、志ん朝の落語は永遠に残せなかったことでしょう。
今日、落語は新しい世代のものになりつつあります。筆者は再び若手の中から伸びる人材をさがし、製作を続けていきたいとしています。落語家の素顔をみごとに描いた本です。読んでいて、名人に会えた気がしました。