半自伝 小田島雄志 白水社 1999年6月





 小田島雄志さんといえば、知らない人はいないくらい有名なシェークスピア学者です。というより偉大なこの文豪の全作品をまさに現代語訳した俊秀といってもいいでしょう。
また演劇評論家としても活躍し、多くの演劇人との交友も深い人です。とにかく芝居が好きで、暇さえあれば、どこかの小屋に坐っているというちょっと毛色のかわった学者といっていいでしょう。
ぼく自身も何度お目にかかったかわかりません。独特の風貌の人ですから、どこにいてもまた観劇しているなとひそかに思ったりもしました。
さてこの本は彼が東大に入学し、その後教授になるまでの半生を描いた自伝です。
若い頃に発表した幾つかの詩も所収されています。それを読むとああ、この人はやはり象牙の塔だけに収まる器ではないということがはっきりとわかります。
当時、大島高校で教鞭をとっていたという奥様に捧げた詩もなかなかのものです。
さてシェークスピアの研究をしながら、同時に文学座のアトリエに通い、やがて多くの演出家にたのまれ、作品を翻訳していくことになります。木村光一との出会いも小田島さんにとっては大きなものでした。ウェスカーの作品を幾つも日本語に訳し、それらが次々と上演されたのです。
芝居の好きな人は、人間に対する興味の持ち方がどこか違うのかもしれません。早稲田小劇場ではじめて出会う鈴木忠志との話なども、大変楽しいものです。
いつか自分の孫達に、お祖父ちゃんは何をしてきたのと聞かれたら、これを読ませたいといって、執筆を始めたとのこと。
日本を代表するシェークスピア学者も、やはり人の父親にかわりはありません。ちょっと微笑ましくなるエピソードでした。