あかね空 山本一力 文藝春秋 2001年10月





 この小説は平成14年度の直木賞受賞作です。
なんとなく手にし、そのまま読んでしまいました。ぼくにとっては初めての作家でした。冒頭から文章はしっかりしています。あっという間に読者を深川の長屋へ引きずり込む筆力は大したものです。
時代物にもさまざまなジャンルがあります。これは市井ものとでも言えばいいのでしょうか。京都から出てきた豆腐職人が、長屋の人々に助けられ、やがて大きな店を構えます。その間に3人の子供に恵まれますが、しかし話はそのままハッピーエンドで終わるわけではありません。
職人であった栄吉が亡くなり、そのあとを長男と次男が引き継ぐものの、博打につい入れ込む長男の栄太郎をさらに虎視眈々とねらっている商売敵も登場します。
親子二代にわたっての葛藤と呼べばいいのかもしれません。末娘と次男が必死になって家を潰すまいと働きます。そこにまた次の試練が襲いかかるのです。
家族というのはどこまでいっても縁の切れるものではありません。それだけに息苦しい展開が次から次へと続きます。
柔らかい京仕込みの豆腐がやっと江戸の人の口に合うようになるまで、どれほど多くの人に助けられたことでしょう。
その人情についほろりとさせられてしまいました。近くの寺の賄いを担当する僧、自分の亡くなった子供の供養のために、なんとかこの豆腐店を盛り立ててあげようとする、近所の同業者、そして彼の作った豆腐を喜んで仕入れてくれる老舗料理屋の女将。
最後には博打打ちの傳蔵も登場します。この男の任侠に満ちた行動も見せ場です。
かつての江戸の匂いがたっぷりと残るこの作品は、やはり筆者にとって大きな遺産であることに違いありません。