ヴェネツィア私のシンデレラ物語 チェスキーナ洋子 草思社 2003年5月





 世の中にはこんなこともあるのだなあとしみじみ感じさせてくれる本でした。タイトルの通り、まさにシンデレラ物語です。芸大を出たばかりの女性が、ハープの勉強をしたいという一心で、イタリアへ留学します。
当時はまだイタリア政府の給費留学生になるくらいしか、その夢を叶えることは難しかったのです。
彼女はとにかくがむしゃらな人です。こうと思ったら、どこまでも突き進むことしかできません。
生い立ちもとにかくすごい環境だったようです。何度も姓を変えたということだけでも、驚いてしまいます。両親の不和は彼女に旺盛な自立心を与えたようです。
学校だけで何校かわったのでしょう。しかしそれが後半の人生にこうした形で華開くのですから、人生は捨てたものではありません。
ある時、サンマルコ広場でお茶を飲んでいた彼女に紳士がかたりかけてきます。
これが後に夫となるヨーロッパでも何本かの指に入る資産家でした。彼女のためにダイヤモンド、ハープ、家などを次々と購入してくれます。最後には妻になって欲しいといわれ、ついにこの紳士、レンツォ・チェスキーナと結ばれるのです。彼は孤独の人でした。多くの身内に騙され、そのことで人間不信にもなっていました。
だからこそ、彼女の天真爛漫な笑顔が魅力的にみえたのでしょう。後に全ての財産をゆずるという遺書をめぐり、10年を超える裁判闘争をしなければならなくなります。
公証人役場へ2人でいけば、なんでもなかったものを彼の具合を心配するあまり、つい先延ばしにしていました。
その盲点を親戚の人たちにつかれたのです。偽造だといわれ手ひどい仕打ちをうけます。それでも彼女が頑張れたのは、やはり夫への信頼と愛情があったからでしょう。
リッカルド・ムーティなどを代表とするヨーロッパの音楽家たちとの親交や、日本人音楽家との交友など、読んでいても大変楽しいものです。
本当にこういう人生もあるのだなとしみじみ感心してしまいました。ヴェネツィアにはやはり詩人の魂が宿っているのかもしれません。