破線のマリス 野沢尚 講談社 2000年5月





テレビ朝日のニュースステーションのイメージが随所にでてきます。著者は現役のシナリオライターです。この作品で第43回江戸川乱歩賞を受賞しました。
報道局のニュース番組で映像編集を担う女性が主人公です。以前に比べてニュースもスピードが要求されています。それとエンタテイメント性。
編集マンたちは、山のような映像の中で使えるシーンだけを指先だけで切り貼りしていくのです。時間との戦いです。大変な仕事というより、ほとんど職人技に近いのではないでしょうか。
主人公遠藤瑶子は、虚実の狭間を縫うモンタージュを駆使し、刺激的な画面を創りだすのが得意でした。彼女を待ち受けていたのは、自ら仕掛けた視覚の罠だったのです。
郵政省に勤めるという男から持ち込まれた一本のビデオから、この話は始まります。放送という分野は郵政省の免許事業だけに、そこを舞台にした話題性は十分にあったと思います。
しかし主人公の性格がやや特異である点、ストーリー展開で損もしています。最後は彼女自身が殺人犯になってしまという意外な展開にやや無理があるかもしれません。
しかしたまにはミステリーもいいものです。この賞をとった作品はなんとなく読んでいます。かつての『猿丸幻視行』から『テロリストのパラソル』まで。はずれたのはそれほどありません。
ちなみにマリスとは悪意という意味だそうです。なんとなく使った映像も処理の仕方ひとつで、さまざまな意味を持ちうるのです。背後に音楽を入れたり、スローモーションや、コマ送りなど、あらゆる技法が悪意に満ちたものであったらと思うと、怖ろしくなります。
事実、今までにこうした報道がなかったわけではありません。
また破線とはテレビの走査線そのものを言います。テレビの世界に潜む怖さを十分に知っている筆者ならではの作品だと言えるでしょう。
なお、著者は今年若くして鬼籍に入られました。