花の降る午後 宮本輝 角川書店 1988年4月





宮本輝はやはりストーリーテラーだなとしみじみ思います。ぼくが好きなのはなんといっても『泥の河』です。この作品の持つ哀しみは、ほかにはないものだと思います。
さて随分昔に書かれた作品を今回手にしたのも偶然のことでした。舞台は神戸。そこへ若い女主人の経営するフランス料理店、画家。その他、さまざまな人が配置され、舞台は東京、伊豆、大阪へとうつります。
実にうまい文章だとしみじみ感じました。書きすぎず、足りないということもないのです。
しかしぼくの好みからいえば、もう少し深く書き込んで欲しかったような気もします。事件が次々と起こり、最後はいい人間が天に味方され、よりよい方向へ展開するところで、話は終わります。
小説は本来このようなものであるべきなのかもしれません。現代の小説は複雑な場所へ入りこみすぎ、自家中毒を起こしつつあるのかもしれないのです。
そうした意味で、かなり前のこの作品を一気に読み終えた今、不思議な解放感があります。
もう少し、これを機会に読んでみてもいいかもしれません。最近のものよりこの時代のものの方が、彼の作品群の中ではいいものが多いといわれているからです。