臨場 横山秀夫 光文社 2004年4月





著者の本を読むのはこれで3作目になります。今回のものが一番感情移入できました。この作品はオムニパス小説の形をとっています。
唯一同じ登場人物は検死官の倉石という男です。ぷっきらぼうで誰にも媚びず、職務にはことの他に厳しい側面を持っています。
しかし人情家です。孤高の人で、だれもが彼を校長と呼び、尊敬すらしています。現場に立ち会い、その殺人死体をみれば、犯罪性があるのかどうか、鮮やかに見抜きます。
しかしぼくが一番感心したのは、そうした側面ではなく、むしろ事件の背後にある人間の感情そのものでした。
人は様々な歴史を持って生きています。誰にもあかせないことも多々あるものです。しかし事件となれば、それを明らかにしなければいけません。たとえ、元同僚であろうとも、事実の収拾は必要なことです。
一番よかったのは「餞」と「十七年蝉」でした。どちらも同僚のからむ事件です。それだけに倉石は細心の注意を払って検視をし、それが結局は退職していく上司へのはなむけとなります。
私生児として生まれた過去を持つ刑事部長が、すでに死んでしまった実の母を最後に訪ねていくシーンは、その前に起こった事件とからんで、人間の生き様を感じさせました。
「十七年蝉」はかつての恋人に自殺された背景を描写しながら、検視官となった若手の警察官が、人への信頼を回復していくまでの物語です。
前2作に比べて、より人間の描き方が深まっているように感じられました。倉石という男の造形はやや類型的ですが、それにもまして、ここに描かれた世界は、リアリティーに満ちています。
短文を畳み重ねていく手法も、以前より格段に進歩したと思います。