柳家小さん芸談 川戸貞吉 冬青社 2003年11月





 五代目柳家小さんの芸談を集めた本です。小さんは昭和の名人と呼ばれた噺家の中で、最後まで生きて、その味わいを多くの人の記憶に刻んだ人です。
独特の風貌で落とし噺を得意としたのです。圓生の人情噺でもなく、文楽、志ん生の芸とも違う、彼独自のものでした。
226事件に一兵卒として参加したという事実もまたこの噺家に陰影を与えています。さらに本当は剣道の道で生きたかったというくらい、剣道には心血を注いでいました。
およそ敵のいない人というのが、小さん師匠の評価でしょう。長い間、落語協会の会長として、その重責を果たし、途中、立川談志らの脱会騒動などでも、持ち前の柔軟な手さばきをみせました。
この本では生前親交の深かった、三代目桂三木助や九代目桂文治、蝶花楼馬楽、内海好江、また芸能生活50年を記念してのインタビューなど、さまざまなものが掲載されています。
独特の間でもってつい笑わされてしまう、小さんの飄逸な味がでたいい芸談集です。
芸は結局盗むもの、だれに教わるものでもなさそうです。そのことをあらためて感じました。また昭和から平成にかけて、芸能の世界で起こったさまざまな事件の記録も併せて載っています。
ぼくの知っているたくさんの人たちも鬼籍に入りました。懐かしい思いでしみじみと読みました。
著者は現TBSのディレクターとして、師匠ともっとも長くつきあった人です。だからこそ中身のある、いいインタビューにもなったのでしょう。