アジア熱 中上紀 太田出版 2004年5月





 中上紀の作品を読んだのは初めてです。しかしこの人の中に宿った血を何度も感じました。
父親は中上健次です。そのことを誰よりも深く感じているのは、やはり彼女自身でしょう。この作品はアジアについて書かれたものです。
著者が自分の足で歩いたアジアの熱をそのまま伝えています。ミャンマー、ベトナム、タイ、韓国、フィリピン、バリ。この風景はあちこちで語られたものです。ぼく自身の経験に重なる部分もありました。
しかしここで語られていることは、やはり彼女だけのものです。全く言葉の通じない先住民族の土地に行く熱意は、作家の持つ業です。
ハワイの奥深くに持っていた家を残して、父親はガンで亡くなります。その後、この家を売るまでの5年間、彼女はなみなみでない苦労をすることになりました。それはどこにでもある当たり前の日常そのものなのです。
ワイキキでもない、ホノルルでもない、ワイアナエという最もハワイ的な場所から、大学へ通った日々の様子も描かれています。
また父親の血に繋がる熊野の様子、新鹿(あたしか)という土地で暮らした日々についても、詳しくその日常とともにまとめてあります。熊野の土地に持つ愛着が、血を通して脈々と流れているのを感じました。
女性が書いた作品ですが、どこか男性的なものを感じさせます。強さといっていいのかもしれません。文体がどこか父親に似ています。それだけ強い影響を受けていることを実感しました。
父親が書いた『木の国根の国物語』に通ずる一つの神話の世界かもしれません。
感性の豊かな人です。これからの活躍が楽しみです。次は小説を読んでみたいものです。