百の旅千の旅 五木寛之 小学館 2004年1月





五木寛之の本は高校時代から読み続けています。あの頃は『ソフィアの秋』『内灘夫人』などという小説が好きでした。ほとんど、当時の著作は読み尽くしたといっていいと思います。
それだけぼくにとっては親しみのある作家です。今回もこのエッセイを読みながら、なぜ好きなのかということを反芻してみました。
はっきりとはわかりませんが、おそらくこの人が「情」ということにのめりこんでいくその姿に共感を覚えるからに違いありません。人がいつか死んでいく存在であるというその事実を正面から、なんの衒いもなく受け入れていく、その姿勢に近しいものを感じます。
全てのものを美しくオブラートにつつむ時代背景の中で、彼は日本的な風景を求めます。その旅が現在も続いている百寺巡礼です。
金沢生まれの五木にとって蓮如の世界、親鸞の世界はことのほか、親しいもののようです。仏教に関する記述も、今の混沌とした世相に疲れている人々を癒すのかもしれません。
ぼくはずっと根無し草のままでいい、そのままの姿で生き、死んでいきたいといする彼のどこかどろどろとした形が、また魅力的なのです。
演歌について書かれたエッセイも面白いものです。これだけ第一線で活躍し続けている作家はそう多くありません。彼の立っている位置が時代の流れにぶれていないからです。
最近はエッセイがほとんどですが、そのどれもが時代相を見事に反映しています。
『若者は荒野をめざす』を読んで、興奮したあの若い日が懐かしくしてたまりません。